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訴え届かず、繰り返される悲劇 「高止まり」するストーカー被害、解決策は

産経ニュース / 2024年6月11日 8時0分

ストーカーによる被害に歯止めがかからない。警察庁のまとめによると、昨年の被害相談件数は前年比712件増の1万9843件で、高止まり状態が続く。事前の訴えもむなしく、殺人などの取り返しのつかない事態に至るケースも後を絶たず、今年に入っても東京都内で若い女性が犠牲になる事件が発生した。悲劇はなぜ、繰り返されるのか。

響く怒号

「俺はストーカーじゃねえ」-。今年5月8日、東京・新宿のタワーマンション周辺に、中年男の怒号が響いた。

このマンションに住んでいた20代の女性が、腹や首などを複数回刺され死亡。犯人は50代の男で、女性が上野周辺で経営していたガールズバーの客だった。

調べに対し、男は「経営を応援するために出した1千万円以上を返してもらうつもりだった」などと供述。「前日の夜から待ち伏せしていた。カネは車やバイクを売って工面したものだった」とも述べた。

女性から初めてストーカーの相談があったのは令和3年12月。男は4年5月、ストーカー規制法違反容疑で逮捕されていた。釈放後も暗い情念をくすぶらせ、一方的な思いが暴走した末の犯行だった。

止まらぬ被害

警察庁によると、ストーカー規制法に基づく禁止命令は昨年1963件出され、平成12年の同法施行以降で最多だった。同法違反による摘発件数も1081件で最多に。ストーカーによる脅迫や暴行、傷害、殺人といった刑法・特別法違反の摘発は1708件と4年連続増加している。

ストーカーの加害者と被害者の関係は、芸能人とファンのようなものも含めて「男女」をキーワードとするものが圧倒的に多い。加害者の一定数は統合失調症や発達障害などの精神疾患を抱えているとされ、警察幹部は「治療のため、加害者を医療機関に引き継ぐといった取り組みにも力を入れている」と語る。

ただ、こうした対策が実を結んでいるとは言いがたい。

昨年6月、横浜市鶴見区で女子大生が交際トラブルから刃物で刺されて殺害された事件では、神奈川県警が4度にわたって仲裁に入っていたが、エスカレートするストーカー行為の歯止めにはならなかった。

同12月には、元交際相手に脅迫メッセージを百数十回送信したとして静岡県警が「身内」である県警警部を脅迫やストーカー規制法違反容疑で逮捕するなど「警察の本気度に疑問符を付けざるを得ない」(法曹関係者)事件も起きている。

事件のたびに対策

ストーカーが注目されるようになったのは、埼玉県桶川市で平成11年、女子大学生が刺殺された事件だった。翌12年にストーカー規制法が成立し、神奈川県逗子市で24年、市役所から元交際相手の男に住所が漏れて30代女性が殺害された事件を受け「執拗(しつよう)なメールの送信」が規制対象に追加されるなど、今日まで改正が繰り返されている。

25年に東京都三鷹市で女子高生が殺された事件では、復讐のため元交際相手などの裸の画像などをインターネット上に公開する「リベンジポルノ」が大きな問題となり、翌26年にリベンジポルノ防止法が成立。同法違反による昨年の摘発件数は62件と、施行後最多を記録している。

ストーカーの診療に従事するカウンセラーは「ストーカーの深層心理には、自意識過剰と被害妄想が共存している。リベンジポルノは、被害者意識に起因する典型的な行動なのでは」と推測する。

頼られない警察

ストーカーによる被害を防ぐためには、周囲の助けが欠かせない。ただ警察庁が昨年行った犯罪被害者のアンケート調査では「ストーキングされて最初に相談する相手(複数回答)」との問いに対し最も多かったのは「相談しなかった」で50・9%。次いで「家族」が45・6%、「友人や知人」が40・0%。「警察はあまり頼りにされていないようだ」(警察庁の担当者)。

今年も新宿の事件が起きてしまったほか、5月18日には大阪で19歳の女子大生が交際していた男に刺殺される事件が発生。被害者は周囲に相談していたものの、警察にはしていなかった。

「ストーカー規制法で(禁止命令などの)行政措置をとったり逮捕したりすることが、抑止ではなく憎悪を助長する逆効果を招くのはもどかしい」。警察関係者は苦しい胸の内を明かしつつ、「手をこまねいているわけにはいかない」と力を込めた。

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