1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「明日も生きていこうと思える制度に」犯罪被害補償の改革、歩みを止めるな

産経ニュース / 2024年6月17日 17時41分

「犯罪被害補償を求める会」の総会で発言する稲田雄介さん。妹・真優子さんは令和3年、事件で命を奪われた=兵庫県尼崎市

「『明日も生きていこう』と思えるような制度であってほしい」。5月、兵庫県尼崎市で開かれた一般社団法人「犯罪被害補償を求める会」(藤本護代表理事)の総会。参加者の女性がこう訴えた言葉が胸に刻まれた。

女性は令和3年、26人が犠牲になった大阪・北新地のクリニック放火殺人事件で夫を失っていた。ここで言う制度とは、犯罪被害者らに対する国の被害補償。今月から内容が大きく変わった。だが、現時点でこの中身は現場の実情に即したものとはいえない。

政府は今月、犯罪被害者遺族に支払われる給付金の最低額を現行の320万円から、多くの場合で1千万円超とする改正犯罪被害者等給付金支給法施行令を閣議決定した。額を底上げするだけでなく、受給者が配偶者や子供といった場合に給付額を加算する仕組みも新設した。施行は6月15日。「この日以降」に起きた事件の被害者が対象となる。

原則1千万円超という点だけをみれば制度が前進したとも思える。だが、外してはならない重要な点が幾つも抜け落ちているのではないか。

例えば、親族間犯罪における大幅な不支給や減額規定などを改める▽過去の被害への遡及(そきゅう)適用▽国が被害者に損害賠償金を立て替えて支払い、加害者に求償する―などの課題に踏み込めていないことだ。

北新地の放火殺人事件で夫を失った女性は、「当事者や遺族が声を上げ続けてきた成果の一つ」と評価する一方、給付金の最低基礎額引き上げに触れ、「『それだけ』という思い」と指摘した。

併せて、損害賠償に関する問題がある。同事件の場合、加害者が死亡した。女性は「民事訴訟すら起こす権利を持っていない」と苦しい胸中を明かした。

女性の夫は当時、さまざまな事情から職には就いていなかった。だが、復職に向けて努力を重ねていた夫の姿を思い、女性はこう力を込めた。

「(遺(のこ)された人たちが)『明日も生きていこう』と思えるような制度であってほしいし、そうあるべきだ」

この補償制度は本来、多様な背景や事情を抱えた犯罪被害者や遺族、一人一人に対応できるものでなければならないはずだ。

一家の大黒柱を、息子を、妹を、理不尽な犯罪で奪われた人たちが明日に希望を持てる-。

この「あるべき姿」は、改正を経ても反映されてはいない。

それでも女性は言った。「これが小さな一歩。とても小さいですけれど小さな一歩」。

これまで犯罪被害に遭った人々を多く取材してきた。異動を経ても一連の問題を追い続けている。その中で見た「小さな一歩」。国が真に希望の持てる内容に制度を変えるまで、歩みを止めてはならない。(藤崎真生)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください