1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「特殊班」変えた4発の銃弾 不動産会社社長宅立てこもり事件 警視庁150年 81/150

産経ニュース / 2024年10月3日 7時0分

全国警察から立てこもり事件対応のプロと仰がれる警視庁捜査1課特殊班(SIT)。実力の陰には悲劇がある。37年前に発生した立てこもり事件は大きな傷を残した。対処技術の向上、資機材の拡充、特殊部隊員の起用…現場に流れた血は捜査員たちの苦闘の原点となった。(内田優作)

■中の状況分からず

昭和62年9月28日午前11時過ぎ、東京都杉並区の高級住宅街に銃声が響いた。現場は「地上げ屋の元祖」といわれた不動産会社社長宅。社長は不在で、元暴力団幹部の男=当時(40)=は家政婦の女性=当時(58)=を人質に取り、警察官にも発砲した。

現場には特殊班が投入された。電話説得に同班での経験が豊富な警部補が当たったが、男は逃走車両を要求する程度。現在のような精度の集音器などもなく、当時臨場していた元特殊班捜査員は「中の様子が全然分からなかった」と語る。

想定した犯人確保の流れは、逃走車両を用意したふりをして、出てきた男に消火器を噴射。玄関外の右側に詰めた捜査員らが取り押さえる―。

捜査員の先頭は特殊犯捜査1係長(当時)の警部、小野田賢二(故人)。名物捜査員だった。「オヤジは交渉に独特な呼吸があった。話し方も姿格好も人懐っこく相手の心にすっと入る」と元捜査員は懐かしむ。

午後5時ごろ、「逃走車両」が現場敷地内に入り交渉に当たっていた警部補が家屋内で男と対面することになった。

約30分後、玄関が開いたが、出てきたのは警部補。手錠をかけられ、段ボール箱を抱えていた。やや離れ、男が女性を抱きかかえるようにしながら姿を見せた。その瞬間、偶然にも小野田の足元の水道用モーターが自動的に作動し、音を立てた。

「いるじゃねえか!」

玄関から一歩も出ないうちに、男は叫び、小野田を2発撃ち、女性の頭を撃ち抜き、自らの頭を撃った。女性は死亡、小野田は頭部などを撃たれて重傷を負った。男は片目を失明しながら一命をとりとめたが、翌年に自殺した。

■大阪府警に学ぶ

39年に「吉展ちゃん事件」を契機に発足した特殊班は、誘拐事件への対処技術を蓄積してきたが、人質立てこもりへの対処技術は乏しかった。元捜査員は打ち明ける。「現場はぶっつけ本番。マニュアルもなく、訓練も行われず、捜査員の経験に頼っていた」

苦い経験は、小野田ら特殊班を変える。事件から約半年後、元捜査員は大阪府警へ赴く。府警は籠城犯が4人を殺害した54年の三菱銀行北畠支店の事件以降、対処技術を磨いてきた。特殊班捜査員は府警の訓練に参加し、状況別のマニュアルを作り緻密な訓練を重ねた。在日米軍からも突入や交渉の技術を学び、閃光(せんこう)弾や集音器、はしご車などの資機材も拡充した。

平成7年9月には、突入能力の高い特殊部隊、第6機動隊特科中隊(のちの「SAT」)の隊員7人が特殊班に配属された。オウム真理教事件などの捜査を指揮し、「名1課長」とうたわれた寺尾正大(故人)の決断だった。現在もSAT経験者の起用は続く。特殊班幹部も多く生まれた。

立てこもりや身代金誘拐や企業恐喝など、特殊班が出動する事件は減ったが、元捜査員は言う。

「訓練はあくまでも訓練だ。本番は違う」=敬称略

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください