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つながり希薄化も息づく「助け合い」 日頃の人間関係が培う共助、都市部も地道に再構築を 備えあれ④互助力

産経ニュース / 2025年1月5日 7時30分

「遠い親戚より近くの他人」ということわざがある。いつ起こるか分からない災害などの際、誰よりも頼りになるのは近所の人たちという意味だ。今では「共助」と呼ばれる地域での助け合いが、30年前の阪神大震災で多くの命を救った。

神戸市東灘区の荻野君子(82)は早朝、激しい揺れで2階が崩れ落ち、1階の居間で寝ていた夫とともに天井の下敷きとなった。体が抜けず、こたつの足を蹴った音で先に脱出した同居の息子に生存を知らせた。間もなく近所の住民6~7人を連れて来た。

「頭はどこ」「今助けてますから」。隣家に大工が住んでいたことも幸いした。天井がのこぎりで切断されるなどし、けがもなく2人は救助された。地震発生から7時間がたっていた。「言葉で言い表せないほどうれしかった。頼りになるのは『近くの他人』だと思った」と荻野は振り返る。

生き埋め救出は自助と共助が大多数

日本火災学会の報告書によると、阪神大震災で閉じ込め・生き埋め時に自力や家族に救出された人の割合は66・8%、隣人や友人らによる「共助」も30・7%を占めた。これに対し、消防や警察などによる「公助」は1・7%に過ぎない。

地方から都市部への人口移動、価値観の多様化などにより、共助の「源泉」となる地域のつながりは各地で年々薄くなっている。ただ、1年前に起きた能登半島地震でも共助は見られた。

800人余りが暮らす石川県能登町の鵜川(うかわ)地区では多数の家屋が倒壊し、生き埋めになる住民も出た。それでも迅速に安否確認を進め、生き埋めになった人がいると分かると、住民が協力して救出。地区内の住民全員が助かった。

現地の状況を調べた内閣府の政策統括官(防災担当)付企画官、西澤雅道によると、鵜川地区では平成23年の東日本大震災後、住民主体で津波ハザードマップを見直し、津波を想定した避難訓練も繰り返していた。

西澤は「地区で日頃培ってきた人間関係を生かし、訓練を継続していた。それが共助につながり、住民全員の命が救われる大きな要因になった」と指摘する。だが、各地でつながりの希薄化が進む中、こうした成果を発揮できる地域がどれほどあるのか。西澤は「個人的な見解だが、人間関係を再構築すれば、都市部でも可能なはずだ」とした。

詳細なルール決め共通認識を持つ

大きな災害を経験したことをきっかけに、近所同士で助け合う「共助」の意識を高めているケースもある。平成29年7月の九州北部豪雨で被災し、犠牲者も出た福岡県東峰(とうほう)村では、近所同士での声掛けルールなどを定めた行動計画を作り、次の災害に備えている。

人口約1800人の東峰村では、豪雨で土砂崩れや河川氾濫(はんらん)が相次ぎ、3人が犠牲となった。復興支援に入った九州大大学院工学研究院教授(防災工学)の三谷泰浩(58)が指導し、まずは行政区ごとに村民同士で話し合い、過去の災害発生地点や老朽家屋などの災害リスクを記した「地区防災マップ」を完成させた。

さらに、災害時の避難先だけでなく、逃げるタイミングや近所の誰に声を掛けるかといった詳細なルールを定めた「コミュニティータイムライン」まで作成した。三谷は「地域の誰が手助けが必要で、誰が声を掛けるのかといったルールをあらかじめ決め、共通認識を持っておくことで、災害時の共助は実現できる」と強調する。

ただ、人口の少ない地域だからこそ可能な取り組みともいえる。住民同士のつながりの希薄化がいっそう進む都市部で、共助を成り立たせるのは一筋縄ではいかない。

「まずはコミュニティーに所属を」

150万人都市の神戸市では昭和60年、ほぼ小学校単位で「自主防災推進協議会」を結成した。だが、「防災意識の啓発といった側面が強く、救出や避難誘導といった実動組織としての位置づけが弱かった」(市消防局の担当者)ため、平成7年の阪神大震災では組織的な活動ができない地域もあった。その教訓から震災後、全市をカバーする192組織の「防災福祉コミュニティ」に再編成。組織ごとに防災・避難訓練を定期的に実施し、「顔の見える関係」の維持に努める。

三谷によると、都市部でも地方でも共助を成り立たせるには、「単位は小さくてもいい。地域や会社といった所属するコミュニティーを持つことが大切だ」と強調する。さらにメンバーの所属する複数のコミュニティーを結び付け、助け合いの関係を広げていくことも重要だとしている。

「防災意識が低い人のリテラシー(活用力)を高めながら、(コミュニティーの)全員が意識を改めていく。共助を実現するには地道な作業しかない」(敬称略)

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