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能登半島地震では地上波テレビとラジオが3週間「停波」 情報源確保へ放送局模索

産経ニュース / 2025年1月4日 9時0分

能登半島地震で亀裂が入った道路。燃料補給が阻まれ電波が停止した自治体もあった=昨年1月2日、石川県穴水町

令和6年の元日に起きた能登半島地震で、石川県輪島市などの一部地域で重要な情報源となる地上波のテレビとラジオが視聴できなくなる「停波」が相次いだ。停電の影響で、親局からの電波を各家庭に送る中継局で非常用電源のバッテリーが切れたことが原因で、地域によっては3週間に及んだところも。能登半島地震から1日で1年となり、情報源の在り方についての議論も進められている。

総務省によると、バッテリー切れによる最初の停波は1月2日に同市町野町で起きた。テレビはNHKと民放4局、ラジオはNHKが放送できなくなった。4日にも複数の地域で一斉に停波。ピーク時の影響世帯数はテレビが約2千、ラジオが約2万2千に及んだ。

放送法施行規則により、放送事業者には停電時に備えてバッテリーなどで電源を確保するとともに、燃料の備蓄や補給手段の確保に努めることが求められている。ただ、中継局の立地の違いなどから「画一的な基準はできない」(同省放送技術課)として、備蓄量に規定はない。

今回停波したのは小規模の中継局。バッテリーの規模なども限られるうえ、山中の施設に続く道路の陥没や降雪が燃料の補給をはばんだこともあり、町野町での復旧は、電力が回復する同月24日まで待たされた。一方で規模の大きい中継局は、自衛隊のヘリコプターによる燃料の搬入で停波を免れた。

同課は「放送の継続が、大きく破綻はしなかった」と捉えるが、9月の豪雨でも停波が生じたこともあり、各局は対応を検討中だ。石川テレビ放送は中継局までの道路の整備や、従来より大きなバッテリーへの更新を考えているという。

燃料の備蓄量を増やせば増やすほど停波の可能性は下がるが、設備の拡充や劣化する燃料の定期的な入れ替えには膨大な費用を要する。東京大の目黒公郎(きみろう)教授(都市震災軽減工学)は「災害時にしか活用できないものに過大な投資を求めるのは困難」と指摘。企業側の対策だけでなく、市民側の備えも重要とする。

地上波が止まっても、衛星放送が受信できれば情報を得られる。テレビやラジオはインターネット配信もあり、スマートフォンのバッテリーがあれば停電中でも番組を視聴できる。「多様な手段を持つほどリスクは低くなる」と目黒教授。普段はネット配信を利用しない人も、災害に備えて試しておく必要があると訴える。

「生字幕」体制を強化

大規模災害が起きた際のテレビの緊急放送を巡り、国は聴覚障害のある人にも情報が伝わるよう字幕をつけることを要請している。放送各局は、ニュースなどの生放送の番組に「生字幕」をつける体制を整えつつ、災害時への備えを進めている。

災害時をにらみ、NHKは平成29年度に字幕制作のスタッフを増員。民放各局も体制を強化し、生字幕制作を外部に委託していた関西テレビは、「災害時には他局と委託先の取り合いになる」と27年からは関連会社での制作も始めた。

スタッフがスタジオの音声をキーボードに打ち込む方法が主流だが、終日かつ連日に及ぶ緊急放送に対応するには、人材の確保が課題となる。近年は、少ない人員で対応できる音声ソフトの活用も進められており、総務省は令和2年度から、生字幕のための新たな設備投資に最大で2分の1を助成している。(藤井沙織)

字幕放送に関する総務省の指針 聴覚障害者がテレビを利用しやすいよう平成9年に実施目標を設定し、約5年ごとに改定。NHK、在京キー局、在阪準キー局に対しては未明から早朝の時間帯と、技術的に生字幕が付けられない番組などを除く全番組での実施を促す。民放各局は令和元年度、NHK(総合)は3年度にそれぞれ目標を達成。平成23年の東日本大震災を受け、大規模災害時には時間帯を問わず、できるだけ速やかに字幕放送を行うよう求めている。

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