「泊まれない奥座敷」和倉復興の道険しく 北陸随一の温泉地、営業再開は4軒のみ
産経ニュース / 2024年11月30日 19時0分
元日の能登半島地震で被災した北陸随一の温泉街・和倉温泉(石川県七尾市)の復興が遅れている。七尾湾に面した風光明媚(めいび)な「奥座敷」だが、地震では宿泊施設20軒超が全て休業し、営業を再開できたのは4軒にとどまる。地震から11カ月。崩落した護岸の復旧工事は年内にも始まる見通しで、地元関係者は「ようやく光が差す」と喜ぶものの、にぎわい再生の日はまだ遠そうだ。
「崩れた建物の公費解体や護岸工事の開始など、自分たちではどうにもできないことも多い。ずっと歯がゆい思いを抱えてきた」。和倉温泉旅館協同組合の宮西直樹事務局長はそう明かす。
和倉温泉は平安時代初頭の開湯から1200年以上の歴史を持ち、毎年約80万人が訪れる能登観光の中心地。地震が襲ったのは、新型コロナウイルス禍による観光客の激減から立ち直りつつある最中のことだった。
温泉街を海の波から守る護岸が全長3・5キロにわたって崩落。20軒超のホテルや旅館のうち約半数が護岸近くに並び、建物が崩れたり、設備が破損したりする被害が出た。旅館協同組合に加盟する全21軒は全て休館を余儀なくされた。
雇用は助成金頼み
5月以降、一般客の受け入れを再開できたのは4軒のみ。11月1日に再開した温泉旅館「日本の宿 のと楽(らく)」も、全3棟のうち修繕が完了した1棟での受け入れにとどまる。ほか8軒では復興支援業者やボランティアに限って受け入れるが、施設や設備の修繕を並行して進めている状況だ。
「泊まれない温泉街に来てほしいとは言えない。観光客は体感で9割減だ」と宮西さん。損傷の激しい施設は公費解体を待つが、解体の目途さえ立たない施設もある。さらに休業中の従業員の雇用は国の雇用調整助成金が頼り。特例措置で年明け以降も助成金は延長されるが、「先のことを考えると復興を急がないと」と温泉街の関係者は一様に焦りを見せる。
護岸復旧着工へ
地震発生から1年を控え、希望もある。国土交通省は、崩落した護岸の復旧工事に早ければ12月中にも着手するからだ。計画では海沿いの旅館からの眺めを確保するため、現在の位置や高さは維持。護岸の海側には天然石を使用し、魚が生息しやすい環境も整備する。2年程度で完了するとみられ、和倉温泉観光協会の多田(ただ)邦彦会長は「和倉温泉の景観は海が売り。護岸がきれいになると見え方が違ってくる」と期待を示す。
ソフト面でも復興へ動き始めている。旅館協同組合など地元を中心に、にぎわいを取り戻すべく「和倉温泉創造的復興まちづくり推進協議会」を設置。11月28日に公表した中間とりまとめ案では、海沿いエリアでのレジャー体験といった温泉内の将来像を示した。
宮西さんは「護岸工事もようやく始まる見通しとなり、光が差してきた。施設の建て直しとまちづくりの両輪で復興を目指したい」と話した。
歴史・文化の再認識に復興の糸口
立命館大の山出美弥准教授(都市計画)
和倉温泉の復興には非常に長い時間がかかるだろう。それでも地域住民が主体となって、地域の歴史や文化、なりわいを再認識することで復興の糸口は必ず見つかる。
大正14年に兵庫県北部を震源に起きた北但大震災では計420人が死亡し、旧城崎町(現豊岡市)の城崎温泉街も甚大な被害を受けた。このとき、住民らは「温泉が湧き出る限り、城崎は大丈夫だ」という強い意志のもとで一丸となり、復興に尽力したと聞く。
住民らは地域の再建に向け、100回以上も集まって話し合ったそうだ。復興債の返済には25年近くかかったが、復興自体は10年で成し遂げられた。復興のキーポイントは、地域をどう再建し、コミュニティーを維持していくかを住民主導で考えることだ。
地域の魅力を発信していくことも忘れてはならない。特に若者は「被災した温泉街の復興を応援したいから行く」というよりも、「おいしいもの、かわいいものがあるから行く」という意識が強い。若年層に訴求できるよう、交流サイト(SNS)も駆使すべきだ。(小川恵理子)
被災6市町の宿泊再開なお5割
能登半島地震で大きな被害を受けた石川県の6市町にある宿泊施設のうち、客の受け入れを再開できたのは5割弱にとどまる。各施設とも地震の被害が大きく、再開できた施設の多くもボランティアや復興支援業者などに限定して受け入れている状況だ。
県によると、地震の被害の大きかった輪島、珠洲(すず)、七尾3市と能登、穴水、志賀3町にあるホテルや旅館、民宿など300余りの施設のうち、11月下旬までに再開できたのは150施設ほど。再開できても設備が壊れたままといった施設が多く、「まだ通常の宿泊客を迎え入れられる状況ではない」(県観光戦略課)のが実情だ。
今春以降、石川県内の宿泊施設を対象に、宿泊料金の最大半額を支援する政府の観光復興支援策「北陸応援割 いしかわ応援旅行割」が実施されたが、7月末までに使用されたのは計約36億円で、予算枠(約45億円)には達しなかった。県は2次避難者の受け入れを優先した施設などを対象に、9~11月に残る9億円分で応援割を再開したが、そもそも6市町の施設の大半は応援割に参加できていなかった。
岸田文雄前首相は7月、補助率を7割にまで拡大した能登地域限定の応援割を「復興でき次第、実施する」との方針を示していた。ただ、石破茂政権に代わって実施は不透明で、県の担当者は「しかるべきタイミングで(政府に実施を)お願いしたい」と語った。
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