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災害時に帰る途中、行方不明に 能登豪雨2週間、企業・学校に求められる判断基準の策定

産経ニュース / 2024年10月5日 16時52分

金井昌信・群馬大大学院教授

豪雨や台風、大規模地震などの災害発生時、勤務先や学校から帰宅するよう促され、移動中に災害に巻き込まれるケースが後を絶たない。9月に能登半島を襲った記録的豪雨でも、大雨特別警報の最中に勤務先から乗用車で帰ろうとしていた女性が行方不明になった。こうした不幸な事例をなくそうと、自治体などが災害時の行動マニュアルを見直す動きも広がっている。

車で帰宅途中に被災

9月21日午前11時過ぎ、石川県輪島市の会社員、中山美紀さん(31)は、同県穴水町の勤務先を出た。住居とする仮設住宅までは車で1時間ほどだが、道中で消息を絶った。3日後に同県能登町で脱輪した中山さんの軽自動車が見つかったが、今も安否はわからないままだ。

中山さんが勤務先を出発する直前の午前10時50分、気象庁が輪島、珠洲(すず)、能登の3市町に大雨特別警報を発表。同庁は「これまでに経験したことのないような大雨で、命の危険が迫り、直ちに安全確保する必要がある『警戒レベル5』に相当する」と説明していた。

東大大学院の片田敏孝特任教授(災害社会工学)は「大雨特別警報が出る状況での事態の展開はかなり急だったのではないか。能登豪雨は警戒レベル5の危険性を改めて認識させられた災害だった」と話す。

勤務先からの帰宅途中に災害に巻き込まれる事例は後を絶たない。令和元年10月には、台風被害に見舞われた福島県南相馬市で、避難所開設準備などの業務を終えて深夜に車で帰宅しようとした市職員の男性=当時(25)=が翌朝、遺体で発見された。

同市は翌年9月に災害時職員行動マニュアルを改訂。「市から避難指示が発令されている場合には、帰宅を原則禁止とし、仮眠場所で休憩をとる」と明記した。担当者は「事故前は勤務終了後の職員の行動について指示すべきではないという考え方だったが、帰宅まで配慮が必要だと認識を改めた」と説明する。

また、平成23年3月11日の東日本大震災でも、岩手、宮城、福島3県の保育園・幼稚園や小中学校などで、迎えに来た保護者とともに別の場所に移動しようとした子供たちが多数、津波に巻き込まれて犠牲となった。

対応見直す自治体・企業

警報発表中に帰宅しようとして命を落とす危険を少しでも防ごうと、企業や学校、自治体などの対応は見直されつつある。事業所側の意識を変えるよう、自治体が帰宅の抑制とそのための準備を呼びかけるケースもある。

静岡県は令和4年、災害時の一斉帰宅を控えるよう求める冊子を作成。「災害直後に移動すると火災や落下物に巻き込まれるなど、命の危険にさらされる恐れがある」とし、企業にはあらかじめ従業員が事業所にとどまれるような計画を立てること、従業員には複数の連絡手段を検討し家族と共有するよう求めた。

冊子は熱海市や伊東市など東部市町で配布。担当者は「主に南海トラフ巨大地震を想定しているが、風水害でも同様の恐れがあり、帰宅を控えるよう呼び掛けている」と話す。

多数の犠牲者が出た東日本大震災後、学校園では安全確認ができない状況下での保護者への引き渡しや下校を見合わせ、校舎内に留め置く対応をとるケースが全国的に増えた。公立保育所や認定こども園、小中学校などは、気象警報が発表されれば速やかに子供たちを帰宅させるよう定める例も多かったが、こうしたルールの見直しも広がっている。

奈良県香芝市では今年10月から、公立保育所や認定こども園などで、気象台の警報を基に園ごとに休業の判断をする運用を始めた。同市の三橋和史市長は「天候が回復する見込みならば、あえて家に帰さずに園にとどめる選択肢もある。場所によって災害リスクはまちまちなので、警報の意味を理解した上で状況に応じて判断したい」という。

一方で、「従業員を帰宅させることが必ずしも誤りだとは思えない」とする事業所もある。大阪市内の介護老人保健施設では、入居者への対応のため、職員は災害時でも安全に留意して出勤する。退勤時には、豪雨や暴風などで安全確保が困難な状況であれば基本的には施設内に留め置くが、男性責任者は「『自宅が心配だから帰る』という職員もいる。危険度によって退社させないなどの国のルールがあれば対応に迷うことはないが、人それぞれ家庭の事情もある」と対応の難しさを語った。

「個人に任せず企業・学校が管理を」群馬大大学院・金井昌信教授(災害社会工学)

防災意識は人によって差があることから、災害時の帰宅判断は個人に任せるのではなく、ある程度企業や教育機関が管理する方が被害を防げると考える。

今回の能登半島の豪雨でみれば、能登半島はあまり大雨が降らない地域なので豪雨災害の危険性は伝わりにくかったかもしれない。したがって、個人の防災意識に依存するのでなく、危険な状況が予想されるなら企業側が建物内にとどまるよう指示するなどした方が効果が上がるだろう。これは学校や保育所でも同様だ。大企業や学校は、自宅よりも建物が堅牢(けんろう)な施設が多いので、とどまってやり過ごすことも有効なはずだ。

本来的には、あらかじめ災害や大事故などに備えて被災時の行動方針などを定める事業継続計画(BCP)を策定することが望まれる。しかし、中小企業や人手が不足している会社ではなかなか手が回らないのが現状だ。まずは出社・帰宅の判断基準や安否の確認方法など最低限の内容を盛り込んだBCP策定に取り組んでほしい。(木ノ下めぐみ、秋山紀浩)

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