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災害廃棄物 復興遅れの要因に 南海トラフでも影響か 自立した防災体制を 4人の識者が語る 防災の日特集

産経ニュース / 2024年9月5日 13時0分

元日の能登半島地震で被災し孤立した能登地方では復興が遅れているとされる。こうした被害は南海トラフ地震でも起こると懸念されている。復興の遅れの要因や教訓をどう考えるかについて、環境地盤工学研究所理事長の嘉門雅史・京都大名誉教授、中野正樹・名古屋大院教授(土木工学)、中野教授と「AI等の活用による災害廃棄物処理プロセスの最適化と災害廃棄物の処理計画・処理実行計画の作成支援システム」を開発した建設会社「奥村組」の大塚義一・環境技術担当部長、矢守克也・京都大防災研究所教授(防災心理学)に聞いた。(聞き手 北村理)

能登半島地震をどうみるか

嘉門 人口減少時代の災害の特徴が顕著だ。過疎化が進み、インフラが脆弱(ぜいじゃく)で復旧・復興を阻んでいる。空き家も多く、二次避難で被災者が地元を離れた。もともと、登記簿上の土地情報である地籍の調査が遅れており、持ち主の同意が必要な家屋解体を難しくしている。

地籍の調査率は石川県全体で15%、奥能登地区は1~数%。全国では東日本大震災で被災した東北3県の率は向上しているが、関東、中部、関西はほぼ10~30%にとどまる。南海トラフ地震など大災害が起きると、能登と同じ状況になると考えるべきだ。

大塚 地震で主要道路が寸断された上に、沿岸部が隆起し海上から被災地へ進人することも困難であったために、初動が遅れた。道路網が復旧しても、支援物資等の輸送が優先され、復旧・復興の工程を左右する災害廃棄物処理は後回しになった。

東日本大震災のように津波で建物が流された場合、初動の道路啓開の段階で、道路上のがれきは撤去と同時に仮置場へ搬出されるが、今回のように地震による建物倒壊の場合は、建物内部の片付けごみの搬出に時間を要するため、初期段階で仮置場へ搬出される廃棄物の量は少ない。建物解体や現地で廃棄物を分別する作業者が不足していることもあり、廃棄物処理がなかなか進まない。

なお、被災家屋は当初2万2000棟といわれたが、さらに増えるともいわれている。

中野 液状化被害が甚大であった内灘町では、細粒分の少ない噴砂が発生していた。津波被害のあった能登町の津波堆積物は細粒分を含むものの砂が主体だった。「のと里山海道」では、沢埋め高盛土の被害が多かったが、平成19年の地震後に復旧した盛土や、盛土の締固め基準が引き上げられた25年以降の盛土は被害が小さい。

各地域の地盤特性を事前に把握し対策しておくことが防災減災につながるだけでなく、被災後の復旧、復興の工程における災害廃棄物処理・利用の工程に大きな影響を与えると感じた。南海トラフ地震では、大量の津波堆積物が海底から運ばれ農地などさまざまな地域に被害を及ぼす。工業地帯では化学物質の流出が懸念される。地域特性に応じた対策の検討が必要だ。

矢守 能登半島で起きたことは特殊ではなく南海トラフ地震でも同じことが起こるとみるべきだ。

一方、奥能登の4市町は人口6万人で日本の人口比でいうと2000分の1。南海トラフ地震の被災想定地域は707市町村あり、想定されている避難民は1000万人で人口比は10分の1。奥能登で1人の被災者を2000人で救援したと考えると、南海トラフ地震では、10人で1人を助けなければならない。同地震の影響は全国に及ぶなかで、それは不可能だ。

被災想定地域の各自治体、各地域で、外からの救援に頼らない自立した防災体制を整えるべきだ。

能登の教訓を次の災害にどう生かすべきか

中野 現在、東日本大震災で災害廃棄物処理を実施した奥村組や岩手県、他大学と産官学で、平時に作成される廃棄物処理計画のテンプレートをつくり、発災後の処理実行計画を作成する支援システムの研究、構築を進めている。

システムでは、災害廃棄物処理の全プロセスを自在に作成できるモデルを開発し、処理期間、処理事業費、リサイクル率で評価され、最適なプロセスがつくりだされる。

復旧、復興が遅れている能登半島の状況をみると、災害が起こる前に廃棄物をどう処理していくのかの訓練を行えるように取り組む必要があると感じた。また、廃棄物処理は初動対応が復旧、復興の工程を左右するが、初動対応にはまず住民が関わる。

さらに、廃棄物には住民の大切な品々が含まれており、それらの処理を考えると、支援システムを利用した訓練に住民も参加し理解を深めるような産官学民の取り組みが重要となる。

大塚 災害廃棄物の質や量を高精度に把握できると、焼却場や最終処分場等、複数ある処理・処分施設のどこに搬送すべきかの決定や、運搬車両の選定が迅速に行える。また、廃棄物の種類・大きさなどの制約条件に応じた破砕あるいは選別をする機械の最適な配置も可能となる。

奥村組では、ハイパースペクトルカメラを搭載したドローンで廃棄物の山の全体を撮影するなどして、種類や量を高精度に分析する技術の開発を進めている。

事前訓練などに支援システムを活用するにあたっては、一般の住民も含め、処理に関わるすべての関係者が、実際の現場で起こりうる事象を体感できるよう、仮置場の状況を仮想空間で見える化することを検討している。ゆくゆくは、富士山噴火等で発生する火山の灰処理にも活用できるシステムに進化させたい。

矢守 ライフラインの復旧の遅れや長引く避難生活で疲弊した状況下で、煩雑な家屋解体の手続きをしろというのは酷だ。そうならないように外からの支援に頼らない自立的な防災の構築が必要だ。

高知県内では高知市などが災害用井戸の確保を進めている。循環システムでトイレや飲み水を確保する技術もある。太陽光発電やEV車などを利用した地域マイクログリッドによる電力確保もできる。これらの管理は専門家に頼らなくても住民ができるよう平時から使い慣れておくべきだ。

災害廃棄物処理についても、住民は事前に手続きを理解し体験しておく必要がある。災害後の「後片付け」でなく平時に「先片付け」をし廃棄物を出さない取組が大切だ。家屋倒壊を防ぐ耐震化、不要物の断捨離などを地域あげて総点検しておくべきだ。

人口減少時代の災害対策に必要な考え方は

嘉門 少子高齢化が進み、インフラの整備が後回しになっている地域で大災害が発生すると、支援が遅れる。こうしたことは地方だけでなく東京など都市部でも高齢化が進む地域で起こる。また、二次避難などでコミュニティーが分散すると、能登のように災害関連死が増加し、避難が長期化するとコミュニティー崩壊の要因になる。

地方は自然豊かな土地が多い。災害に強いまちづくりを実現するには、自然に還(かえ)す所は還し、人が住む場所を集中させることが必要だ。こうした国土のグランドデザインを描くには、分野横断的な知見やノウハウを蓄積、共有し議論ができる専門機関が必要だ。

AI等の活用による災害廃棄物処理プロセスの最適化と災害廃棄物の処理計画・処理実行計画の作成支援システム

東日本大震災で災害廃棄物処理の進捗(しんちょく)状況をICT(情報通信技術)を用い情報共有を進めた経験をもとに、中野教授ほか4大学、岩手県、奥村組が開発。システムでは平時の処理計画を策定。発災後は、不燃・可燃物や土砂など各種別に分類された廃棄物量を推計し、廃棄物の搬出先の仮置場、焼却・リサイクル施設や最終処分場などへの搬送と処理のプロセスを3つの指標「処理期間、処理事業費、再資源化率」で最適化することで処理の日数と事業費を算出。処理後に資源化される廃棄物の割合「再資源化率」(資源化可能な量/廃棄物発生量)を示す。

奥村組新オフィス「クロスアイ」 産学連携イノベーション加速

今回、座談会の舞台となった奥村組のクロスイノベーションセンター(通称、クロスアイ)。東京駅前のJPタワーに奥村組が昨年10月に開設した新オフィスだ。「人と技術の未来創造拠点」をコンセプトに、立地を生かし企業や大学の技術者らと連携しイノベーションを加速させる。座談会記事中の大塚氏の発言にあるように環境分野などの新技術の開発を目指している。また、同社の技術やリクルート情報を発信している。

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