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南海トラフ臨時情報、1カ月 専門家「日頃の備えを」 360年前には10メートル超の津波

産経ニュース / 2024年9月8日 7時0分

50年ごとに建立されている外所地震の被害を伝える供養碑=8月10日午後、宮崎市(木下倫太朗撮影)

日向灘で最大震度6弱の地震が発生し、南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震注意」が発表されて8日で1カ月。今回の震源は、付近で約360年前に10㍍超の津波を伴う巨大地震が発生するなど地震活動が活発な地域だった。専門家は、南海トラフ地震に及ぼす影響は今後も極めて低いとしながらも、日頃から備えることの重要性を訴える。

長さ約20メートルの亀裂

「亀裂ができたのは江戸時代の外所(とんところ)地震以来」。日向灘の地震で震度6弱を観測した宮崎県日南市にある鵜戸(うど)神宮の禰宜(ねぎ)、伊東健治さん(59)は、境内を案内しながらこう説明した。

日向灘に面した断崖にある鵜戸神宮では、地震により参道に幅2~3センチ、長さ約20メートルの亀裂が生じ、灯籠7基が倒壊するなどの被害があった。伊東さんによると、寛文2(1662)年に起きた日向灘地震(俗称・外所地震)では、参道が海岸まで崩れ落ちたという言い伝えがあり、今回の被害に「初めての経験なので、今後が心配」と話した。

外所地震では、激しい揺れと大津波で約200人が死亡し、複数の村が水没するなど甚大な被害が出たと伝わる。同地震を研究する京都大防災研究所宮崎観測所の山下裕亮助教(観測地震学)によると、マグニチュード(M)8級と推定され、平成23年の東日本大震災と同様、断層面が通常の地震よりもゆっくりとずれ動く「スロー地震」の影響で巨大化。沿岸の津波の高さは10メートルを超えたという。

「南海トラフとは別物」

一方、今回の地震はM7・1で約30キロの深部で起きた上、震源域が陸側に近く大きな津波は発生しなかった。初めて臨時情報も出されたが、山下助教は「南海トラフ地震とは全くの別物と評価していいのではないか」と指摘する。

南海トラフ地震が地盤のひずみをじっくりとため、約100~200年周期で起きるのに対し、日向灘では数十年周期の短いサイクルでM7級の地震が発生してきた。南海トラフと日向灘のプレート境界はつながっているが、「(2つの地震の)特徴は異なる」(山下助教)とする。

ただ、日向灘では今回の地震によりプレートの境界全体が不安定な状態にあり、外所地震と同規模の地震が発生する確率が通常より高まっているという。山下助教は「日向灘地震は南海トラフ地震の前にあと2~3回起こる可能性もある」とし、「臨時情報の期間に関係なく、事前の備えを習慣化することが大事だ」と呼び掛ける。

日向灘、東日本後で南海トラフ地震の「想定震源域」に

今回地震が起きた日向灘は、内閣府が15年に、南海トラフ巨大地震(当時は東海・東南海・南海地震)の想定震源域として公表した際は含まれていなかった。しかし、23年の東日本大震災では日本海溝で断層破壊が連動する「想定外」の巨大地震となったことを教訓に、南海トラフ地震の震源域も翌24年までに、日向灘も含めるなど2倍に拡大された。

内閣府の有識者会議は東日本大震災後、プレート構造などの科学データや堆積物調査、古文書などをもとに検討した。その結果、岩盤がずれる震源域の想定を、西側は日向灘北部から南西に拡大。東側はこれまで別の地震と想定していた富士川河口断層帯の北端までとするなどした。

気象庁は今回の地震から1カ月を前に6日、「想定震源域で特段の変化を示すような地震活動や地殻変動は観測されていない」と公表した。ただ、南海トラフ地震の30年以内の発生確率は70~80%で、同庁の南海トラフ地震評価検討会の平田直会長は「巨大地震が起きる可能性はある」として、備えを続けるよう呼びかけた。

災害の教訓伝える伝承碑 地図記号制定、全国に2千カ所超

地震や台風など多くの自然災害に見舞われてきた日本列島では、過去の災害を後世に伝える「自然災害伝承碑」が各地に建っている。国土地理院は碑の位置を示す地図記号を制定しており、江戸時代の外所地震に伴う津波に襲われた宮崎市内の供養碑もその一つだ。

災害伝承碑は、過去の地震や水害などを記した石碑やモニュメント。30年の西日本豪雨で多くの犠牲者が出た岡山県倉敷市真備(まび)町地区では、明治時代に200人以上が犠牲になった水害を伝える石碑があった。しかし、豪雨当時は碑の存在すら知らない住民も多く、国土地理院は令和元年、過去の災害の教訓を伝える災害伝承碑の地図記号を制定した。

23年の東日本大震災で最大約10メートルの津波に襲われた宮城県東松島市の復興慰霊碑など、全国の2173基(8月29日現在)の位置をウェブ上の「地理院地図」などで公開。外所地震による津波で15人が水死したと伝わる宮崎市の島山地区にある供養碑も含まれる。

同地区の供養碑は50年ごとに新たに建てる取り組みが350年にわたって引き継がれ、16年には7基目が建立された。管理する島山地区の自治会長、茜ケ久保(あかねがくぼ)真由美さん(77)によると、全国的にも珍しい取り組みだとし、「地図に載ることで供養碑が多くの人の目に触れるきっかけになる。歴史を知ってもらい、災害への関心をより高く持ってもらえれば」と話していた。(木下倫太朗)

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