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増える集中豪雨対策に「避難スイッチ」 視覚効果で警戒呼びかけ 4年前被災の熊本で

産経ニュース / 2024年7月3日 19時34分

矢守克也教授

7月の梅雨期に発生する集中豪雨は、線状降水帯を含め年々増えている。令和2年には熊本県内で災害関連死を含め67人が犠牲となったが、集中豪雨の半数は九州西部で発生するとされる。熊本豪雨から4日で4年。逃げ遅れを防ぐには危険の早期周知が何よりも重要で、熊本県では豪雨の教訓から照明の視覚効果で住民に避難を求める「避難スイッチ」を導入するなど対策も進む。

6月27日、気象庁は熊本県に線状降水帯が発生する恐れがある「半日前予測」を出した。都道府県単位での予測は同県で初めて。ただ、同県人吉市の球磨(くま)川にかかる「水の手橋」の照明は電球色から変わらなかった。

照明は川の水位が上昇するにつれ電球色が白、赤、赤の点滅と変わる仕組み。4年前の豪雨を受け、視覚効果で警戒を呼び掛ける全国初のシステムとして導入された。

「今回は本当に何もなくてよかった」。橋の近くに住む深水雄二さん(73)は話す。深水さん宅は4年前、床下浸水に遭っていた。「一つの目安として橋のシグナルは重要。いつ水災害は来るか分からない。緊張感を持てる」と強調する。

熊本豪雨の際、市民からは「防災行政無線が雨の音にかき消され聞こえなかった」との声が多く寄せられた。解決策の一つとして、観光向けの照明を水位センサーと連動させ、変色で危険を周知するようにした。市の担当者は「観光客を含め危険を察知してもらえるように備えることが人的被害を減らすことに繋がる」と強調する。

気象庁が全国1300カ所の観測地点を対象にした調査では、車の運転も危険とされる1時間降水量80ミリ以上の豪雨の頻度は、昭和55年ごろと比べ約1・7~2・3倍に増加。また、同庁気象研究所によると、昭和51~令和4年の梅雨期に発生した集中豪雨は606事例あり、半数ほどが熊本県など九州西部に集中していたとする。

熊本県は今回、半日前予測の直後、「空振りを恐れず、住民の命を守る体制を」と呼びかけ高い警戒感を示した。14府県で300人超が犠牲となった平成30年の西日本豪雨は最初の大雨特別警報が出て6日で6年。今年も特に梅雨明けまでの時期は、全国地域を問わず警戒が求められる。

水災補償加入率は右肩下がり

線状降水帯を含む集中豪雨や大規模台風に伴う水害は毎年のように拡大する一方、建物や家財が受けた損害に保険を適用する「水災補償」の加入率は全国で年々減少している。背景として、マンション住まいの多い都市部を中心に、水害への意識が低くなっていることを挙げる声もある。

損害保険各社でつくる損害保険料率算出機構によると、全国の火災保険加入者で水災補償を付帯した比率は平成25年度に76・9%。その後は右肩下がりで令和4年度には64・1%となった。

あいおいニッセイ同和損害保険によると、一般的な建物などの損害保険では、火災や落雷▽風雪災▽漏水▽盗難▽破損▽水災-が補償されるプランを顧客に勧めている。ただ、マンションなど共同住宅の入居者には水災を除いたプランも用意しているという。

水災補償の付帯率が下がっている要因について、保険関係者は「保険料が値上がりする中、少しでもコストカットしたい人が増えている。特に高層マンションの居住者は水災のイメージが湧きにくく、加入しないのでは」と推測する。

また、大規模な水害が起きても水災補償が増える動きがほとんどないという。これに対し、地震保険は地震が起きた後などに飛躍的に増えており、加入率はここ20年で倍増している。

日本損害保険協会は、水災補償は一般的な洪水だけでなく、排水能力を越える豪雨でトイレや風呂から下水が逆流する「内水氾濫」が起きた場合にも適用されると説明。都市部でも十分に起こる可能性があるとして加入を呼び掛けている。(五十嵐一)

「減災への取り組み共有を」

京都大防災研究所の矢守克也教授の話

昭和34年の伊勢湾台風以降、国内では台風や豪雨で千人以上が犠牲になった事例はない。半世紀以上、治水という意味ではうまくやってきたといえるだろう。だが、最近は状況の変化によって「陰り」が見える。

1つは気候変動要因だ。線状降水帯の頻発などで自然の脅威は増し、どの地域も危険にさらされるようになった。例えば、元々大雨被害の少ない地域では排水施設の能力が低く、下水道などから水があふれる「内水氾濫」が起こりかねない。

もう1つは社会的要因。避難が容易ではない高齢者だけでなく、訪日外国人客も増えるなど守るべき対象が多い。また、堤防や水門といったインフラにも耐用年数に限りがあるが、国や自治体の財政面を含め更新が行き届くのか問題だ。

こうした中、熊本県人吉市による橋を点灯させるのは評価すべき取り組みだ。多くの人が遠くから確認できるし、訪日外国人にも分かりやすい。こうした「避難スイッチ」を共有することで、災害時の被害を減らす取り組みが各地に広がっていくべきだろう。(聞き手 五十嵐一)

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