行政分かれた対応、冷静過ぎる住民 南海トラフ臨時情報、理解に課題 呼びかけ終了
産経ニュース / 2024年8月15日 21時36分
宮崎県沖で発生したマグニチュード(M)7・1の地震を受け、南海トラフ巨大地震が起きる可能性が平常時よりも高まっているとして出された臨時情報「巨大地震注意」は15日に特別な注意を呼びかける措置を終了した。令和元年5月の制度運用開始から初めて発表されたが、自治体などの対応には一部で混乱もみられた。担当者は「もう少し丁寧に説明すべきだった」と振り返る。
「多くの人が『何をすればいいのか』と戸惑ったのではないか」。全国知事会で防災分野を担当する黒岩祐治神奈川県知事は、松本剛明総務相に具体的な対応策を示すよう要請した14日の会見でこう語った。
「周知の仕方、振り返る必要」
今回は初めての運用で松村祥史防災担当相は15日の会見で「国民に心配をかけた。国民への周知の仕方などを振り返る必要がある」と述べ、どのような対応をすべきか、国として検証する考えを示した。
混乱が生じた臨時情報。お盆時期で多くの人出が見込まれた海水浴場では、閉鎖した和歌山県白浜町などと、開設した神奈川県藤沢市などで対応が分かれた。臨時情報の発端となる地震が起きた宮崎県沖から近い九州や四国では避難所開設などの対応が取られたが、遠方では対応しない自治体もあったという。政府の防災部門に関わる有識者は「事前に対応を決めていたかどうかで差が出た」と分析する。
一方、JR東海などは津波到達まで短時間で避難が困難な地域が含まれる紀伊半島で運行する特急「南紀」「くろしお」を運休させた。ただ、運休は内陸部の飯田線を走る特急「伊那路」や静岡-甲府間を走る「ふじかわ」にもおよび、国土交通省内では「必要性があったのか」との声が漏れた。
分かりにくさ否めない
地震発生の確率が高まったとしつつ、日常生活を前提とする臨時情報の分かりにくさは否めない。判断基準はなく、自治体や業者に委ねられており、発表時の気象庁の会見を見た、ある鉄道幹部も「禅問答のようだ」とつぶやいた。
司令塔の官邸も混乱した。岸田文雄首相は8日夜、記者団に「備えの再確認を」と訴えたが、具体的対応に言及しなかった。首相周辺は「お盆休みと重なり、経済への影響も考慮する必要があった」と説明した。
ただ、住民の受け止めは「冷静」のようだ。東大大学院情報学環総合防災情報研究センターが行った28府県住民対象の意識調査では、実際に行動に移した人は、複数回答可で「備蓄を確認」(19・7%)「家具の転倒防止を確認」(8・1%)などにとどまった。センター長の関谷直也教授(災害情報論)は「日常生活の維持を強調するあまり、何に注意すべきか意味が正しく伝わっていない。伝え方に課題が残る」と話した。(市岡豊大)
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