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昨年も浸水したエリアに「有料老人ホーム」建設計画 制限する法令なく「ハザードマップの意味がない」と住民懸念

産経ニュース / 2024年8月8日 8時30分

那珂川沿いの有料老人ホームの建設予定地。地元町内会によると何度も浸水しているという=福岡市南区

福岡市がハザードマップで「家屋倒壊等氾濫想定区域」に指定する同市南区弥永2丁目地区で有料老人ホームなどを建設する計画が浮上している。建設予定地は那珂川沿いにあり、市が最大3~5メートル未満浸水する危険性があると警告するエリア。だが、行政による開発規制は難しく、住民から「ハザードマップの意味がない」などの声が上がっている。(千田恒弥)

「昨年7月の大雨の際にも那珂川から越水して建設予定地の田畑に濁流が流れ込んで浸水した。お年寄りや体の不自由な人たちの命を預かる施設を建設する場所としては不適切だ。無責任ではないか」

弥永2丁目町内会長の大賀和男さんは昨年7月に浸水した建設予定地を歩きながら、事業者の姿勢に疑問を投げかけた。伊藤啓司さんも同地区が住宅地として多くの人たちを受け入れてきた経緯に触れながら、「私たちはいじわるをしているわけではない。純粋に入所する方々のことが心配なのだ」と話した。

■建設制限の法令なし

計画が持ち上がったのは昨年9月ごろ。大賀さんは建設予定地に立つ看板の前で「今回の計画はこれで知った」と事業者への不信感を募らせた。昨年11月には町内会の強い要請で事業者による説明会が開かれ、有料老人ホーム(定員90人)とホスピス施設(定員34人)の建設計画が示された。住民からは浸水エリアであることなどを理由に反対意見が多数出たという。

住民の指摘はもっともに聞こえるが、ハザードマップに基づいて住宅や民間施設の建設を制限する法令はない。ハザードマップは住民への啓蒙(けいもう)的な位置づけに過ぎず、浸水想定区域に立地する老人ホームは全国的に少なくない。

厚生労働省と国土交通省が令和2年10月に行った全国の特別養護老人ホームなどの立地条件の実態調査によると、洪水浸水想定区域や土砂災害警戒区域のいずれかにある施設は全体の約43%を占めた。福岡市内でも浸水エリアに立地する施設は複数あるようだ。

福岡市での有料老人ホームの設置は届け出制で、同市高齢社会部事業者指導課は「高齢者へのサービス実態があれば、行政が設置を妨げることは法令上できない」という。立地について市は指導指針の中で「災害に対する安全性を考慮するよう」求めているが、同課は「言い方として『浸水想定区域に建ててはいけない』とは言っていない」と説明した。

さらに有料老人ホームが浸水エリア内に立地していても「不動産取引のように契約前の重要事項説明が法的に義務付けられているわけではない」(同課)。そのため入居希望者や家族がリスクを把握しきれないケースもあるという。

■事業者への指導強化

こうした現状を踏まえ、福岡市では指導指針を改定し、入居希望者らに施設所在地に関して事前に説明するよう事業者への指導を強化する方針だ。高島宗一郎市長は5日の記者会見で「安全確保と地域住民の心理的な安心は別であり、事業者には法令順守に加え、住民への丁寧な説明が求められている」と述べた。

洪水災害などに詳しい福岡工業大学の田井明准教授は「ハザードマップに基づいた開発規制は難しいが、浸水エリアへの福祉施設の建設はできる限り避けるべきだ」とした上で、「洪水は事前に避難できる災害。行政は事業者が作成する災害関連計画の内容を厳しく指導すべきだ」と指摘した。

弥永2丁目の有料老人ホームの建設計画を進めている事業者に、適地と判断した理由などを尋ねたが、7日までに回答はなかった。

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