その避難訓練、大丈夫? ARやVR活用しアップデート、日大などが産学連携で協定締結
産経ニュース / 2025年1月20日 8時0分
阪神大震災の発生から30年となった災害大国日本。誰もが一度は経験するのが、学校などで行われる避難訓練だ。死傷者を減らすのに効果があるとされる一方、地域の被害想定や最新の知見に基づいた行動を取り入れたものは少ない。こんな問題意識から、避難訓練の「アップデート」を目的とした産学連携の協定が締結された。3年間にわたり効果を検証し、指導マニュアルなどの整備を目指す。(橋本昌宗)
「ダンゴムシ」はNG
「うわっ!無理無理無理!」
2枚重ねた専用マットの上側を人力で揺らすことで、大地震を疑似的に体感できる「YURETA」。震度6弱相当の揺れを体験した学生は、驚きをあらわにした。今月14日の協定締結式に続いて行われた、防災教育機器の体験会での一幕だ。
一部地域の学校では、揺れが来たら両手で頭を抱えてうずくまる「ダンゴムシのポーズ」を推奨している。ただ、揺れの中で学生がポーズをとろうとしても、姿勢を保てず転がってしまった。
「このポーズでは、天井から落ちてくるものを確認したり、非常口を探したりできない。被害を軽減どころか、増大させてしまう恐れがある」
YURETAを作製したNPO法人「減災教育普及協会」の江夏猛史理事長はこう指摘し、学生に両手両ひざをつくよう示唆。すると体が安定し、周囲を確認する余裕も出てくるようになった。
体験会では、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用して災害を〝実体験〟できる機器も紹介。火災や浸水、地震の3パターンが用意され、煙が室内の天井付近に広がっていく様子や、浸水が1メートルほどになると、何が起きるのかを実際に確認した。
変わらぬ現場
「30年前から、防災について学校現場で教えていることが何も変わっていない」。同協会などと協定を締結した日本大危機管理学部の秦康範教授は、防災教育の現状について、危機感をあらわにする。
災害が起きたら机の下に潜り、廊下に整列して校庭に集合-。学校での避難訓練でみられる一般的な光景だが、秦教授は「大地震が起きて棚などが倒れ、けがをした児童や生徒がいるときに、整列できるのか」と疑問を口にする。
「おはしも(押さない・走らない・しゃべらない・戻らない)」など、さまざまな標語を覚えることも推奨されているが、秦教授は「どの行動にどういう効果があるか、エビデンス(科学的な裏付け)はない」とする。
専門家らがタッグ
専門の防災教育を受けているわけではない教員や保育士らが、現場に立てば防災を「教える側」に立たされている。ならば、「先生」たちの防災教育を充実させることで、児童、生徒の対応力も向上させることができるのではないか-。
こうした問題意識を共有する形で、日大危機管理学部と減災教育普及協会、VRやARを活用した防災体験機器の開発・普及に取り組む神奈川歯科大歯学部(板宮朋基教授)と一般社団法人「AR防災」(板宮晶大代表理事)の4者は、防災教育や避難訓練の刷新に共同で取り組む協定書に調印した。
日大系列の佐野日大高(栃木県佐野市)と日大認定こども園(東京都世田谷区)をモデル施設に選定。AR、VRを含めたさまざまな機材を使って防災教育を施す。
令和9年度末までに効果の検証をまとめ、学校での適切な指導方法をマニュアルとして整備する方針。私立校は教員の人事異動が少ないため、継続的に効果の検証が可能になることも期待されるという。
AR防災の板宮代表理事は「われわれがイベントをやると、その場では『良かった』と反響があるが、実際にどう意識が変わって行動につながったのか、追跡がなかった」と話す。秦教授は「南海トラフ巨大地震や首都直下地震の脅威が迫っている中で、スピード感を持って取り組んでいきたい」と意気込みを語った。
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