豪雨後急ピッチで進む能登半島の公費解体「次の壁」は雪 39%完了、進捗に地域差
産経ニュース / 2024年12月30日 18時58分
10万棟以上の家屋が損壊した能登半島地震の被災地では、公費解体が急ピッチで進み、石川県では年内の中間目標だった1万2千棟を超えた。当初は進捗(しんちょく)の遅れが問題化したが、9月の豪雨後に解体作業班を約1200班まで増やしペースアップした。地震から間もなく1年となる中、懸念されるのは積雪による作業の遅れだ。進捗の地域差も無視できず、来年10月までに目標通り完了できるか見通せない。
石川県によると、12月22日時点の解体数は1万3547棟となり、申請数3万4482棟に対する割合は39・3%。「年末までに『景色が変わった』と実感してもらうことが重要」として掲げた中間目標は超えた。
発生半年後の6月末時点で、県内の解体見込み棟数に対する「解体率」は、わずか3・3%だった。解体申請や審査の手続きに手間取ったことが主な要因とされた。
政府は5月から解体を進める対策に乗り出す。相続登記がされないなどの理由で所有者が多数いる物件について、法務、環境両省は全員の同意がなくても解体を進められる「滅失登記」の枠組みを提示。国土交通省は解体業者を全国から集め、海上輸送を駆使して災害廃棄物を広域で処理した。
解体率は7月ごろから上向き始め、9月の豪雨後に作業班も増強。10月末には3割を突破した。
ただ、冬季は降雪の影響から作業のペースダウンは必至だ。豪雨で被災した建物に関する申請も今後増える見通しで、馳(はせ)浩知事は「来年1月中に解体計画を見直す」としている。
遅れには事前の想定不足も影響
公費解体を巡っては、自治体による差も顕在化する。石川県輪島市の解体率は被災地では最低の25・1%(11月末時点)。ペースを上げるため作業班は最多の約350班が入る。市の担当者は「積雪で作業ができなくなる恐れがあるので、山間部を優先せざるを得ない。結果として市街地にはまだ倒壊家屋が残っている」と説明する。
同じ被災地でも珠洲(すず)市の解体率は最高の48%(同)。県によると、同市では比較的早く解体工事の発注があり、地区ごとに複数班を投入して効率的に作業を進めた。こうした地道な取り組みが奏功したとみられる。
被災地にとって公費解体は重要な課題だが、事前の想定不足も垣間見える。輪島市の地域防災計画には人手が不足した場合の応援要請を含め一連の対応が記載されているが、平時の訓練に公費解体の対応は含めていなかったという。
今回の地震で被害家屋は市内で1万棟以上あり、担当者は「ここまでの被害は想定していなかった」と明かす。政府は各自治体に対し、平時から公費解体に関する要綱などを整えるよう求めている。
事前連絡なく解体、石川県内で5件
能登半島地震の公費解体では、所有者に事前の連絡なしに解体されたケースが、石川県内で少なくとも5件あったことが確認されている。大切な家財を搬出できなかった被災者は「なぜこんなことが起きるのか」と憤る。
公費解体は、被災建物を所有者に代わって市町が解体・撤去する制度。解体前に所有者と市町の担当者、業者が現場で立ち会い、家財の運び出しも念頭に開始日や終了の目安、事前連絡の有無などを確認する。
しかし県によると、事前連絡をせず解体したケースが12月中旬までに5件発生。ほかに、同姓の別の住民の家屋を誤って解体しようとしたケースが1件あった。
同県輪島市の本郷明夫さん(69)は、自宅兼店舗で約40年間、はんこ店を営んでいたが、地震で全壊して公費解体を申請。6月に3者で立ち会いをした際、倒壊家屋の中にはんこの材料の象牙や彫刻刀、図案を収めたパソコンなどがあるため、市や業者に事前連絡を依頼していた。
解体予定の7月3日は作業が見送られ、翌4日も作業はない旨を聞いていたが同日、事前連絡もなく解体が始まった。抗議すると、業者から「作業が始まったら中断できない」「立ち入らないで」と言われ、10日ほどで更地になったという。
跡地からは約40年間愛用してきた彫刻刀が見つかったが、折れて使い物にならなくなっていた。本郷さんは「復興のために解体を申請したのに、大切な商売道具が奪われてしまった」と嘆く。
再発防止のため、県は市町や業界団体に事前連絡の徹底を要請した。輪島市の担当者は「家屋は貴重な財産。周知を徹底したい」と話した。
「解体後の街の姿考え工程を」京大防災研究所の牧紀男教授
能登半島地震は多くの建物が揺れで倒壊しており、阪神大震災や熊本地震とケースは近い。ただ、都心部ではなく、半島のため交通アクセスが限られる。自治体も小規模で職員数も多くなく、解体手続きなどに時間を要している感がある。
現在、解体業者は確保されてきているが、職員や業者も慣れない手続きでミスが生じるなど、進行管理がうまくいっていないケースも散見される。県が支援システムを構築するなど、スムーズに進めるための方策も課題となりそうだ。
一方で性急に解体を進めると、災害廃棄物の仮置き場があふれたり、作業車両の渋滞が起きたりと別の問題も起きかねない。被災建物の中には歴史ある木造建築も多い。被害の程度によっては解体せず耐震化して維持する方法もあるし、解体するとしても建材を再利用することは可能だ。
倒壊建物がずっと残っているのは心が痛いし、早く解体が済んでほしい思いもあるだろう。だが、自治体には解体後の街の姿を総合的に考え、作業の工程を組むことを大切にしてほしい。(市岡豊大、秋山紀浩)
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