「72時間の壁」最優先に救助指揮 細田正・前石川県警本部長、警察官のケア重要性も訴え
産経ニュース / 2024年6月29日 16時45分
元日に最大震度7を観測した能登半島地震の発生当時、石川県警本部長だった細田正氏(59)=現宮城県警本部長=が、産経新聞のインタビューに応じた。地震直後は陸路の寸断で部隊の移動が困難を極め、救助活動も生存率が急激に下がる「72時間の壁」との闘いだったと振り返る。地震発生から7月1日で半年。被災地での寒さや断水が活動中の部隊に影響を及ぼしたことを踏まえ、警察官の心身のケアの大切さも訴えた。
能登半島沖では令和2年12月以降に地震活動が活発化し、5年5月には最大震度6強の揺れが襲った石川県珠洲(すず)市で1人が死亡した。「いつ大地震が起きてもおかしくない」。4年夏に石川県警本部長に就任し、緊張感を持ちながら救助訓練や警察官の参集訓練を繰り返したが、年明けの揺れは想定を超えていた。
《輪島署の非常用電源が使えない》
数時間を要した電源復旧までの間、被災状況の把握は、警察官同士の携帯電話での通話や110番が頼りだった。現地からの断片情報をつなぎ合わせると、甚大な被害の様子が浮かび上がった。
「被災地の警察署長は自治体との調整や情報の集約に忙殺され、指揮が手薄になる。効率的かつ迅速に救助を進めるには、高い階級を持つ現場指揮官の存在が不可欠」。過去の災害の教訓も踏まえ、署長クラスの警視をトップとした救助部隊を同県輪島市方面へ派遣することを決めた。
家屋の下敷きになった被災者らは発生72時間以内が救命できる目安とされる。道路は各地で寸断されていたが、「いかなる条件下でも迅速な救助活動」が最優先事項だ。部隊は道路をふさぐ樹木を切断し、土砂を回避しながら輪島市を目指した。翌朝には救助活動を開始できたが、輪島の観光名所「朝市通り」は大火で無残な姿に変わり、多方面での捜索や救助を余儀なくされた。
《焼け跡で見つかった人骨は身元が分からないものもある》
朝市通りでの犠牲者はおよそ20人。大規模火災で人骨が炭化し、DNA型鑑定によっても身元が特定できないケースもあった。ただ、発見場所から「どなたの骨であるかの推測はできた」。亡くなったとみられる被災者の親族に「ご親族の骨かどうか100%の確証はない」と前置きした上で、引き渡したこともあったと明かす。
《長期にわたる復興支援活動。日を追うごとに被災地で活動する警察官の顔には疲労がにじむ》
関連死を含む犠牲者が110人を超えた珠洲市では、ほぼ全域の断水が4カ月以上続いた。管轄の珠洲署に所属する警察官は管内居住が原則だが、水のない生活はストレスが懸念される。
実は「3交代勤務の警察官を中心に、百数十キロ離れた金沢市での居住を認めた」という。バスで約2時間かけて通勤という初の取り組みだったが、「業務に大きな支障はなかった」と明かす。
地震から約4カ月後の4月25日付で宮城県警本部長に異動した。13年前の東日本大震災では津波などで殉職者も相次いだ。定年まで残り半年。能登半島地震での指揮経験を重ねながら、自らがなすべきことを考え、向き合う日々を送る。
「被災地では警察官も被災者の一人。そうした警察官を休ませ、被害が軽微だった警察署の警察官を投入する。そうした仕組みづくりも考えたい」
(岡嶋大城)
■ほそだ・ただし 昭和40年、大阪府出身。神戸大卒業後、国家2種(現一般職)採用で警察庁に入庁し、主に刑事畑を歩む。福岡県警捜査2課長や兵庫県警刑事部長、警察庁犯罪鑑識官などを経て令和4年8月、石川県警本部長に就任。能登半島地震の人命救助や交通規制、警備活動などを指揮し、6年4月から宮城県警本部長。59歳。
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