土砂が乾いただけの「手つかず」の被害、迫る冬に消えぬ不安 能登半島豪雨1カ月
産経ニュース / 2024年10月21日 7時0分
山肌がごっそり崩れ落ち、おびただしい樹木とともに、ふもとの家屋を屋根の上から押しつぶしている。流れ込んだ土砂はすでに乾燥しているが、それを除けば、ほぼ被災当時のまま。復興も復旧もない「手つかず」の現状がそこにある。
元日の能登半島地震の被災地を無情にも襲った記録的豪雨は、21日で発生から1カ月。被害の大きかった石川県輪島市町野町周辺を歩いた。
「町野小学校前」の看板の付いた信号機は斜めに大きく傾きながらもまだ機能はしている。赤から青に切り替わったが、行き交う車は多くない。
道路の両側にある多くの建物が元日の地震で倒壊。「公費解体」のショベルカーが稼働している家屋もあったが、ほとんどは野ざらしになっている。
地区に残り、妻とともに理髪店と美容室を営む元井孝司さん(74)によれば1カ月前に近所のスーパーに流れ込んだ泥流の水位は2メートルに及んだという。豪雨で地盤が緩んだことで「他の場所もいつ崩落するか分からない」と危機感を抱く。
周辺の住民はほとんどが仮設住宅に身を寄せている。これからやってくる半島の冬は過酷だ。大雪のときに災害が重なればどうなるのか。とどまる決断をしても、不安は消えない。
町野町で「のと栄能ファーム」を営む米農家、山下祐介さん(38)は「豪雨以降、『もう辞める』と言う仲間が多くなった」と肩を落とす。農業の担い手不足はさらに深刻になった。
山下さん自身も大きな被害を受けた一人だ。それまで計10ヘクタールの作付けを行っていたが、地震で作業所が壊れ、作付けできたのはたった2ヘクタール。そこに豪雨で土砂が流入し、収穫できたのはそのうちの半分だった。「本来なら来年の作業に向けた準備を進める時期だが、先行きはまったく見通せない」とため息をついた。
被災地では人口の流出に歯止めがかからない。もともとの人口減少傾向に、度重なる災害が拍車をかける。「このままでは未来がない」。元井さんの言葉は切実さを増すばかりだ。(藤木祥平)
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