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世界最大の乾燥機は新幹線1両分 災害備蓄でも注目、フリーズドライ工場に単独取材㊤

産経ニュース / 2024年12月18日 11時0分

無数のトレイに収まったみそ汁が「トロリー」と呼ばれる棚で運ばれる=12月2日、岡山県里庄町(市岡豊大撮影)

お湯を注ぐだけで温かいみそ汁やスープが作れるフリーズドライ製品。食卓の強い味方であるだけでなく、近年では災害時の備蓄食としても注目されている。「アマノフーズ」のブランドでフリーズドライみそ汁市場1位を誇るアサヒグループ食品の岡山工場に、全国紙として初めて単独取材に入った。世界最大級のフリーズドライ機など、工場内にはトップシェアを支える秘密や、企業努力が隠されていた。

まずは「おいしいみそ汁作り」

広島県福山市と岡山県倉敷市の中間に位置する同県里庄町。中国山地の豊かな自然と住宅地が共存する、のどかな雰囲気の街に、アマノフーズの工場はある。

担当者からレクチャーを受け、まず全身を徹底的に衛生服で覆う。頭巾のすそを上着の中に入れ、上着のすそはズボンの中に。粘着式クリーナーを全身にかけ、さらに個室で10秒間、風圧を浴びてほこりを飛ばす。

ようやく工場内に入ると、ふわりとみその香りが漂ってきた。最初の工程はみそ汁作り。「ニーダー」と呼ばれる長辺2メートルの四角い金属製の大鍋に具材と調味液を入れ、機械でかき混ぜる。1回1千リットル、2万食分。乾燥前に具材と調味液を混ぜ、味をなじませる。

この段階でいかにおいしいみそ汁を作るかが、最初のポイントだ。具材は旬を味わえるよう、産地にこだわる。ネギはそのまま投入するが、ナスは手で詰めるなど食材によって工程を変える。みそも数種類をブレンドし、具材によって使い分ける。

天井に張り巡らされたレールで…

できあがった大量のみそ汁は、パイプを通って充填(じゅうてん)の工程に移る。フリーズドライ製品は衝撃で割れやすいが、割れてしまうと作り立ての風味が損なわれるため、一つ一つ、プラスチックトレイに入れられる。

10列に並んだトレイがベルトコンベヤーで運ばれ、そこへパイプからみそ汁が1食分ずつ流し込まれる。無数のトレイに入ったみそ汁は、高さ3メートルほどの「トロリー」と呼ばれる大きな棚で、天井のレールからつるされて運ばれる。

レールは工場内の天井に張り巡らされており、次に向かうのは凍結庫だ。中はマイナス25~30度。ここで8~10時間かけて、徐々に凍らせる。

工場内のあちこちで「レールポイント切り替え中」という音声アナウンスが鳴り、作業員が慎重にトロリーを押す。その様子を撮影しようとすると、レール部分を写さないよう注意された。安全対策に独自技術が駆使されているからだという。

凍結後はいよいよフリーズドライ機(乾燥機)へ。円筒形で長さ24メートル、直径2・5メートル。新幹線車両1両分と同程度で、1度に8万8千食分を作れる世界最大級のサイズだ。これが2つの工場建屋に計18台もあるというから驚く。

大きな丸い扉は、さながら列車の先頭車両のよう。扉が開き、トロリーが入っていく。内部の壁に使われる断熱材に独自の工夫があるといい、中をのぞくことはできない。みそ汁はここで24時間以上かけて、じっくりと水分を抜かれる。

〝宇宙空間〟で徹底乾燥

真空状態に置かれた水は、沸点が下がるため氷から一気に水蒸気へ「昇華」する。フリーズドライ製法は、この現象を利用したものだ。

乾燥機の中の気圧を、国際的に「宇宙空間」と定義される高度120キロと同じレベルまで下げ、沸点をマイナス20度まで下げる。すると、食品内部の凍った水分が気化し、食品はスポンジ状になる。こうすることで食品を加熱せずに乾燥でき、鮮度や風味を損なわずに長期保存できるという。

最後の工程では、乾燥しブロック状になったみそ汁を、アルミ袋で完全密封する。湿気や酸素から守るため特殊な包装がされ、金属探知機やX線、人の目による検査が行われる。長期保存のための工夫が凝らされているため、ここでの撮影も一部NGだ。

仕入れから完成まで、実に1週間以上。さまざまな工程を経てようやく完成したみそ汁は、湯をかけるとわずか10秒で元に戻ってしまう。

昔の技術をそのまま継続

岡山工場では昭和43年、吸収合併前の天野実業時代にフリーズドライ食品の製造を開始。日清食品の「カップヌードル」に入れる具材を供給して収益を伸ばし、みそ汁などの商品生産体制を整えた。

同社の竹谷直也製造部長は「製造工程として大きな変更はなく、天野実業時代の技術を現在もそのまま継続している」と胸を張る。

元々保存が利く備蓄食として活用されてきたフリーズドライ食品だが、災害などへの備えとして少し多めに買っておき、使ったら使った分だけ新しく買い足す「ローリングストック」の観点でも脚光を浴びている。

アサヒグループ食品では、備蓄ニーズに焦点を当てた企業活動を展開。リゾットや豚汁なども入った「ローリングストックBOX」を販売している。

同社によると、今年は1月の能登半島地震と、8月の南海トラフ巨大地震の臨時情報発表時に、それぞれ売り上げが一気に伸びたという。災害時に被災者がまず直面する問題である「食」。お湯さえあれば食べられる温かいフリーズドライ食品は、心も体もいやしてくれる、心強い味方といえそうだ。(市岡豊大)

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