地震で失った仕事、再就職したばかりだった不明の31歳女性 「早く帰ってきて」待つ家族
産経ニュース / 2024年9月30日 21時37分
石川県の能登半島を記録的豪雨が襲った日、穴水町の勤務先から輪島市町野町の仮設住宅に戻ろうとしていたはずの中山美紀さん(31)は帰宅せず、その後運転していた軽自動車だけが川沿いで見つかった。朗らかで家族思いの中山さんは元日の能登半島地震で自宅と職を失い、ようやく別の職場で9月から働き始めたばかりだった。「地震さえなければ、安否不明になることもなかった」。家族はやりきれない思いを胸に、帰りを待ちわびている。
29日午後、能登町の町野川に架かる橋の付近で、警察や消防、自衛隊による捜索が行われた。橋脚に引っかかった大量の流木を取り除き、中山さんの手がかりを捜す。
9カ月前の地震で中山さんの生活は一変した。輪島市町野町の自宅は傾いて住めなくなり、避難所や県外の2次避難先を転々とした。地震によって清掃の仕事も失った。
6月に仮設住宅に入居し、一家6人で身を寄せ合って暮らすように。ハローワークに通い、9月に車で1時間ほどの穴水町にある清掃会社に就職。21日は午前6時ごろに軽自動車で仮設住宅を出た。家族に「行ってきます」と声をかけたという。
雨が激しくなり、輪島市や能登町など3市町に大雨特別警報が出た。弟の真さん(28)によると、中山さんは勤務先から「雨がひどいから帰った方がいい」と促され、21日午前11時過ぎに職場を出たという。たたきつけるような雨が降り、心配になった真さんが何度も電話をかけたが、つながらなかった。
24日になって能登町の川沿いの道で、中山さんの軽自動車が脱輪した状態で見つかった。車内にはかばんが残っていた。ドライブレコーダーには中山さんが車の外に出る様子が映っていたという。
明るく元気な性格で、笑顔を絶やさなかった中山さん。「職場で嫌なことがあっても、愚痴をこぼすというより笑い話にするタイプ」(真さん)で、家族の会話を盛り上げ、いつも両親や祖父母を和ませていた。
豪雨の発生から1週間が過ぎても安否が分からず、家族は憔悴(しょうすい)しきっている。真さんは「捜索してくれる方に『お願いします』と頭を下げるくらいしかできない。姉のことを考え、よく眠れない日が続く」と明かす。
地震がなければ、以前の仕事を続けていれば、安否不明になることはなかったのではないかという思いがぬぐえない。10月17日は中山さんの32歳の誕生日。真さんは毎年「おめでとう」と祝っていた。家族で「おかえり」と迎えられる日が来ることを切望している。(吉田智香)
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