「水資源生かしたい」能登、断水被災住民の思い 分散型水道システムに実現の可能性
産経ニュース / 2025年1月23日 21時49分
昨年1月の能登半島地震で約5カ月断水した石川県珠洲市馬緤地区で湧水などを活用した「分散型水道システム」が実現する可能性が出てきた。「目の前にある水資源を生かしたい」。地下水を利用して急場をしのいだ同地区の住民たちは浄水場から配水される従来型の水道の限界を感じている。一方で水道のあり方を転換するには衛生面や法制度の課題も残る。
急遽地下水を利用
馬緤地区の水道は約5キロ離れた隣の集落にある浄水場から地区内の配水池を経由して77世帯へ配水される。だが、老朽化した配管は地震で損壊し、復旧までに約5カ月かかった。その後の豪雨では土砂崩れで浄水場が機能停止し、現在も仮復旧の状況にある。
住民らは急遽、約250メートル離れた民家裏手の地下水が出る場所から、避難所まで送水ホースを敷設。地下水は風呂やトイレのほか、沸騰させて調理にも使った。吉國國彦区長(60)は「断水して初めて水の大切さが身に染みた。水さえあれば最低限の生活は保障される」と振り返る。
湧水は日頃は農業用水に使っていたが、試算では地区内の需要を賄える1日41トンの安定した水量があると分かり、水質検査でも異常はなかった。地下水を配水池まで引き上げ、水質基準を満たすための浄水器を備えれば、水道網が寸断されても独立して供給を継続できる小規模水道になる-。そんな構想を住民らは珠洲市に訴えている。吉國区長は「既存の設備や資源を生かし、次の災害に備えたいだけだ。行政事業として認めてもらいたい」と話す。
自治体の負担減の側面も
ただ、現行制度では井戸水などの自主水源を使用する場合、公共事業の対象外となる。珠洲市の担当者は「地区が独自に運営して、衛生面などを安定的に維持管理できるか」と懸念を示す。
一方で、既存の水道網から一部を独立した「分散型システム」へ切り替えることは、過疎化にあえぐ地方自治体の負担を減らすのも事実だ。国土交通省の令和4年度のまとめによると、珠洲市の水道の供給コストに対する料金収入割合(料金回収率)は86%で、隣の輪島市は71%。いずれも赤字経営を強いられ、設備の耐震化も遅れている。
水道事業に詳しい近畿大経営学部の浦上拓也教授(公益事業論)は「老朽化設備の更新などの負担を考えれば、『近代水道』の一部を分散型へ置き換えるのは有力だ。水道法上の位置付けや水質管理などの議論を整える必要がある」と話した。(市岡豊大)
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