阪神大震災のボランティア経験生かし地域防災に取り組む男性 「命を守るにはまず備え」
産経ニュース / 2025年1月16日 12時9分
平成7年の阪神大震災でのボランティア経験を生かし、奈良県桜井市内で30年近く地域防災に尽力する人がいる。奈良盆地を見下ろす高台にある同市朝倉台の「自主防災会」副会長、坂口幹彦さん(78)。斜面の住宅地だけに地震や大雨による土砂災害も予想され、各家庭での食料備蓄の推奨や避難訓練、小中学校の防災教室などに取り組む。13日には九州で最大震度5弱の地震があったばかり。「南海トラフ地震がいつ発生するか分からない。命を守るには備えが肝心」と気を引き締める。
30年前の阪神大震災時、坂口さんが被災地の兵庫県西宮市に入ったのは発生から約1カ月後。「倒壊したビルや真っ黒に焼け焦げた住宅がいたる所にあった。かろうじて幹線道路だけは、車が通れるようにがれきが取り除かれていた」と振り返る。
当時、桜井市などのボーイスカウトの指導員をしており、被災地のボーイスカウト団体と調整して西宮市に入った。会社勤めだったため、週末にボーイスカウト仲間ら数人と現地に赴き、市役所で避難住民向けの弁当や飲料水の仕分け作業を行った。
何より心を痛めたのが、厳寒の中で避難所に入れず公園でテント生活を強いられた人たちの姿だ。救援物資も行き届いていなかった。
市役所などには各地からトラックで物資が運ばれてきたが、段ボール箱が積み上がったままだった。各避難所へ水や食料などを配送するにも、必要数を把握して分配する態勢が整っていなかったためだ。
大量のおにぎりが積まれたトラックを見かけ、避難所に持っていくのかと思ったら、消費期限が迫っているので廃棄すると聞き、ショックを受けた。「支援する側も受け入れる側も初めてのことで、現場は混乱するばかりだった。何とか力になりたかった」と語る。
千人規模の避難訓練
「災害となれば当面は自助でやるしかない」。被災地の現状を肌で感じただけに、地元に戻ってからは自治会を通じて住民に災害対策の必要性を説明し、平成9年に自主防災会を立ち上げた。14年からは毎年、阪神大震災のあった1月17日前後の休日に、地震を想定した住民対象の大規模な防災訓練を実施。現在は高齢者も参加しやすいよう厳冬期を避けて11月に変更し、地区の住民約3千人のうち千人以上が参加している。
訓練では、備蓄食料が自宅に何日分あるかなども住民に確認する。朝倉台自治会長の菅原克博さん(70)は「被害が甚大だと行政や自衛隊の支援もままならない。1週間分の食料備蓄は必要」と呼びかける。
救援物資が届かないことも想定し、「身近な自然にあるものの活用を」と周辺の竹やぶの竹を切って柱代わりにしてブルーシートで覆うテント作りの体験、近くを流れる初瀬川の水を飲料水にする浄水器の試飲なども行っている。
避難所の改善急務
現在、自主防災会の会員は約90人。地域で力を入れるのが「災害時支え合いマップ」の作製だ。住宅地図に住民の名前や連絡先、高齢者など避難時に支援が必要な人の有無も記入し、逃げ遅れを防ぐ。さらに小中学校などで防災教室を開催しており、今月17日にも市内の小学校で防災教室を行う。
阪神大震災から30年。坂口さんが最も懸念するのが避難所の環境だ。「体育館の床に被災者が寝かされる状況は、阪神大震災以降も東日本大震災や能登半島地震でも変わっていない。国が先頭に立って改善に取り組んでほしい」と力を込めた。(小畑三秋)
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