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住まい再建阻む建設費高騰…能登地震半年経ても尽きぬ不安 被災者9割「地元に愛着」

産経ニュース / 2024年6月30日 20時9分

能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県輪島市に設営された仮設住宅=6月30日午後、石川県輪島市(渡辺恭晃撮影)

能登半島地震から半年になるのに合わせ、石川県内5市町の仮設住宅入居者に実施した産経新聞のアンケートでは、今後の生活不安について、5割超が「住まいの再建」を挙げた。3月実施の前回アンケートと同様の傾向で、被災者の心境が3カ月で変わることはなかった。今回、9割超が地元への愛着を明かしたが、建設費の高騰もあり、地元での住まい再建や改修に着手できないといった課題も浮かぶ。

工事業者「見つからぬ」

106人が回答した3月のアンケートでは、生活不安として58人が「住まいの再建」と回答。今回も100人のうち52人が複数回答で「住まいの再建」を選び、仮設住宅での生活が本格化しても同じ不安を抱えている。

住まいの再建に立ちはだかるのが建設費の高騰だ。自宅の新築を望む輪島市の70代女性は「建材や人件費が高くなった」とし、同市の蒔絵(まきえ)師、坂口政昭さん(62)は「予算内で建てられそうにない。5年はかかる」と覚悟する。

全壊世帯などには被災者生活再建支援法に基づき、再建資金などとして最大300万円が支給。高齢者や障害者がいる世帯に最大300万円が上乗せされる仕組みもあるが、被災者の資金不安を解消するには至っていない。建設需要増に伴う工事業者不足も深刻で、自宅改修を考える珠洲(すず)市の無職、柳勝利さん(80)は「業者が見つからない」とぼやく。

健康も気がかり

今後の不安として、次に多かったのが「余震や大雨など次の災害」で27人。輪島市のホテル従業員、池田正彦さん(67)は「家が潰れるかも」とし、能登町の70代女性は「隣の敷地に土砂が流れ込まないか」と余震の影響を心配する。

「自分の体調・健康」(23人)も2割を超えた。各自治体は仮設住宅に保健師を派遣し、災害関連死の防止などに努めるが、特に体力が衰えがちな高齢者らは健康面も気がかりなようだ。

心臓ペースメーカーを入れる珠洲市の無職、宮腰千鶴さん(75)は「地震でバスの本数が減り、病院に通いづらい」。10年前に腰を手術した能登町の看護師の女性(66)は「週4日の勤務が限界」と悩む。

新たな職場「見つかるか」

職場が被災したケースも多く、10人が「仕事の継続、就職」を選んだ。輪島市の介護施設職員の女性(73)は勤務先が休業中で「いつ仕事を再開できるのか」と困惑。建設業の仕事をやめるという珠洲市の男性(46)は「職場が見つかるか不安」と明かす。

アンケートでは「地元に愛着があるか」との質問も実施した。迷う場合を想定して「どちらかというと」の選択肢も設けたが、明確に愛着があるとした回答が78人だった。迷った末に愛着があるとしたのは13人で、合わせて91人に上った。

愛着があると答えた輪島市の無職、山口波子さん(90)は「遠くに避難していても、地元が気になってしまう」と強調。珠洲市の高校1年、干場湧仁さん(15)は「大学卒業後は(地元に)戻りたい。親の近くで働けたら」と将来のUターンも視野に入れていた。

「情報不足」に苦慮

仮設住宅の入居者100人には、入居後の困りごとについても複数回答で聞いた。情報不足や健康管理など回答は多岐にわたったが、最も多かったのは「ない」の35人。一定の入居者が平穏な生活を送っているようだ。

困りごとで多かったのが、復興状況や住まいの再建に関する「情報不足」で18人。自治体は情報発信にLINE(ライン)を活用しているが、「使いこなせない」(輪島市の73歳女性)など、高齢者を中心に苦慮する様子がうかがえた。

「健康・体調管理」は15人。能登町の無職女性(77)は、2次避難先で毎日1万歩近く歩いていたというが、入居後は「体を動かそうという気にならず体調が悪い」とこぼした。次いで「車などの移動手段」が14人で、輪島市の無職、岩崎ふじ子さん(82)は「買い物に徒歩で30分かかる」と嘆いた。

地震前の自宅に比べ手狭な仮設住宅にも13人が不満とした。穴水町の無職、中田隆義さん(72)は「兄の家に荷物を預けている」とし、夫や息子夫婦と同居する輪島市の80代女性は「みんなイライラしてけんかが増えた」と打ち明けた。

また、仮設住宅では話し声や生活音が響き、「周囲に迷惑をかけないよう気を使う」(珠洲市の65歳女性)との声も。「とにかく寂しい。ずっとテレビをつけている」(七尾市の76歳女性)など孤立感を訴える人もいた。

互助関係維持し、孤独死防止を

立木茂雄・同志社大社会学部教授(福祉防災学)の話

能登半島地震を巡るアンケートからは、仮設住宅を退去した後の住まいについて、被災者の半数ほどは、住居の自力再建が念頭にないことが読み取れる。災害公営住宅が多くの人の受け皿になりそうだ。

仮設住宅での不安は「地域・近所との途絶」が1割で、困ったことで「孤独感・孤立感」は1割に満たない。孤立に対する心配が少ないことは特筆すべきだ。

地震後に現地を訪れた際、1カ所の仮設住宅団地に地域単位で入った事例を確認し、行政側が配慮して入居を進めていると感じた。地域コミュニティーの互助関係を保つことになり、今後懸念される孤独死などを防ぐ決め手になるだろう。

仮設団地に高齢者が集められ、訪問介護などのサービスが効率的に提供できる環境になった意味は大きい。これまで過疎集落では介護が必要でも、離れて暮らす子供の元に身を寄せるか、高齢者施設に入るかの選択に限られていたからだ。

災害公営住宅に移行する際、互助関係を維持し、コンパクトにまとまった地域を生み出せるのか、今が分水嶺(ぶんすいれい)だ。(聞き手 藤谷茂樹)

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