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脆弱化した被災地に想定上回る豪雨で「複合災害」 気候変動で求められる水害対策の見直し

産経ニュース / 2024年10月1日 7時0分

元日の地震で甚大な被害を受けた能登半島の被災地は、9月21日の記録的豪雨で浸水や土砂崩れなどが相次いだ。地震で損壊した河川の護岸などは応急処置を済ませていたが、「50年に1度程度」の想定をはるかに上回る豪雨で中小27河川が氾濫した。地震から1日で9カ月。復興の途上に豪雨が追い打ちをかける「複合災害」に被災者のショックは大きく、河川の備えも「想定を見直さざるを得ない」との声が上がる。

国土交通省や石川県によると、元日の地震では半島各地の河川で護岸や堤防などの損壊を多数確認。ただ、被害を受けた河川への応急処置は、豪雨災害の発生が予想される6月以降の「出水期」までに完了したという。

地震では同県輪島市の中心部を流れる河原田(かわらだ)川も土砂崩れで一部が埋没し、4カ所で斜面や護岸が損壊。5月末までに重機を使って流木や土砂を撤去し、斜面が崩壊した部分は大型土囊(どのう)を積むなどして補強した。国交省の担当者は「出水期でも従来想定の降雨量であれば問題はなかった」とする。

しかし、河川整備で50年に1度程度の雨に備える「計画規模」が想定する24時間総雨量は、河原田川の場合213ミリだった。今回の豪雨では22日午前9時までの24時間で341ミリ(姫田橋観測所)を観測し、川にかかる姫田橋の一部が崩落。広範囲で氾濫し、川の両脇に広がる住宅地だけでなく、利用が始まったばかりの仮設住宅まで浸水した。

川の近くで営んでいた定食屋が浸水した男性(73)は「地震で自宅を、豪雨では店をそれぞれ失った。どうやって生活を立て直したらいいのか」と途方に暮れる。

また、元日の地震では、輪島市の町野川や同県珠洲(すず)市の若山川でも流域内の複数箇所で護岸や斜面の崩壊などが確認されたが、いずれも5月末までに応急処置は終えていた。だが、町野川でも21日午前に氾濫。周辺の集落が広範囲で泥水に沈んだ。若山川は土囊が押し流され、斜面が削られて川沿いに並んでいた住宅の基礎部分を押し流した。

若山川に近い同市若山町に住む70代女性は「川の形が変わってしまった。30年以上生活してきてこんな大雨は初めてだ」と声を震わせた。

地震で被災地の護岸などの備えは脆弱(ぜいじゃく)になっていたが、県河川課の担当者は「通常の大雨程度なら応急処置は有効だったはずだ」と言い切る。ただ、輪島市など被災地では想定の1・5倍超の豪雨が降り、複合災害を防ぐことはできなかった。

「地震後から出水期までの限られた時間に〝一生に一度〟レベルの豪雨を想定し、手を打つのは実際には難しい。(これまでの)想定そのものを見直さなければ」。県の担当者は嘆息した。

線状降水帯「半日前予測」まだ難しく

次々に生じる積乱雲が線状に連なり、局地的な豪雨をもたらす線状降水帯は、能登半島豪雨でも発生した。ただ、気象庁が発生可能性を事前に伝える「半日前予測」は出なかった。府県単位で発表する運用が5月に始まったが、予測のないまま線状降水帯が発生するケースは多く、まだ正確な予測は難しい状況だ。

線状降水帯は平成26年の広島土砂災害で注目を集め、以降も西日本豪雨(30年)などで相次ぎ発生した。気象庁は令和3年に線状降水帯の発生を伝える「顕著な大雨に関する気象情報」の発表を開始。翌4年には発生可能性を12~6時間前に全国11地方に分けて伝える半日前予測も始めた。

さらに、新たなスーパーコンピューターの導入で、予測に使うプログラムの計算単位が5キロ四方から2キロ四方に向上。今年5月下旬からは府県単位で発表する運用を始めた。事前に予測情報が出せないまま発生する「見逃し」は、2回に1回程度と想定する。

実際、8月29日に鹿児島に上陸した台風10号などに伴う線状降水帯は、半日前予測にほぼ沿う形で発生。一方で7月24~25日に起きた山形、秋田両県の記録的な豪雨では、山形県で2度も線状降水帯が発生したが、半日前予測はなかった。

9月21日の能登半島豪雨でも半日前予測がないまま線状降水帯が発生した。気象庁の杉本悟史予報課長は同日の記者会見で、「非常に極端な現象が予測できなかった」と述べ、局地的な雨の強まりを予測する難しさを語った。

100年以上先見越して 山田正・中央大名誉教授(河川工学)

河川の氾濫は近年、国の管理する1級河川ではなく、都道府県が管理する2級河川で目立つ。能登半島で氾濫した多くは2級河川だった。今回の豪雨は地方河川の脆弱(ぜいじゃく)さが露呈したといえる。

氾濫への備えとして、水位計や浸水センサーを設置するほか、土砂災害のリスクを低減させる護岸、砂防ダムの整備などが挙げられるが、多額の費用がかかる。地元自治体だけで財源を確保するのは難しく、国が主導して支援する必要がある。

日本は高度経済成長期からバブル崩壊まで幸運にも大規模な水害はなかった。しかし、近年は毎年のように豪雨災害が起こり、国民は従来の水害対策だけでは不十分だと感じ始めている。日本は水害対策を一から見直したほうがいい。

9月にはポーランドやドイツで大規模洪水が発生するなど、気候変動もあって世界各国が豪雨問題に直面している。他国と連携し、斬新なアイデアを求めるのも手だ。能登の豪雨を教訓に「50年に1度」の想定で対策が不十分なら、「100年以上先」を見越し、着実に対策を進めるべきだ。(土屋宏剛、宮本尚明)

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