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「ととが天国でもいっぱい登れるように…」 K2西壁で滑落のクライマー2人に「お別れ」

産経ニュース / 2024年12月14日 18時0分

2人の「お別れの会」で献花する参列者

パキスタン北部にある世界第2の高峰K2(8611メートル)西壁の最難未踏ルートに挑み、7月に滑落した山岳カメラマンでクライマーの平出和也さん=当時(45)=と中島健郎さん=同(39)=の「お別れの会」が14日、東京都内で開かれた。関係者ら約1500人が参列し、未踏の壁に新しいラインを描き続けた2人をしのんだ。

2人が挑んだK2西壁は、8千メートル峰に残された「最難関の課題」の一つ。酸素ボンベを使い、多くの人数と物資を投入する「極地法」で別ルートを登った記録はあるが、2人が挑んだのは酸素ボンベを持たず、装備を軽量化して少人数で一気に登る先鋭的な「アルパインスタイル」での最難ルート。過去に「世界最強」と称されたポーランドの登山家が4度挑んだが、敗退している。

2人が所属する石井スポーツ(東京都)の最終報告などによると、2人は現地時間7月27日午前7時ごろ、標高約7550メートルの氷雪壁を登攀(とうはん)中に、氷とともに約1200メートル滑落。同社はヘリなどでの救助を試みたが二重遭難の危険性が高く、家族の同意のもと30日に救助活動を打ち切った。

「お別れの会」は関係者向けと一般向けの2部構成で開催。関係者向けの会であいさつした平出さんの妻、尚子さん(46)は、幼い娘が「ととが天国でもいっぱい山に登れるように」と話したことを明かし、「『山に登らなければ』ではなく、これ以上彼の人生を肯定するものはないと思った。彼が生きていたときと同じように、明るく楽しく生きていきたい」と述べた。

突出した能力も おごらずひたむきに

7千メートル級の未踏壁で新ルートを登り続けているクライマーは現在、世界でも一握りしかいない。平出和也さんと中島健郎さんは遭難後の今月10日、昨年7月に果たしたパキスタンのティリチミール(7708メートル)北壁初登攀で「登山界のアカデミー賞」とも呼ばれるピオレ・ドール賞を受賞した。平出さんは日本人最多となる4回目、中島さんも3回目の受賞だ。

長野県出身の平出さんは、東海大在学中に同大山岳部OB主体の遠征隊でヒマラヤのクーラカンリ(7381メートル)東峰に登頂し、国際公募隊に加わってチョ・オユー(8201メートル)にも登頂。だが、頂上まで張られた固定ロープをたどるという、近年の高峰ノーマルルートの登り方に違和感を抱いた。

23歳のとき、地図を手に一人パキスタンの山岳地帯を旅する中で、未踏ルートを自ら切り開く登山を志した。地図を見て現地に何度も通って山を眺め、自分だけの独創的なラインを描いて登る。人生をかけてそんな挑戦を続けたいと、大学を退学して現所属先に入社した。

奈良県出身の中島さんも関西学院大山岳部在籍中に3度の海外遠征を経験し、ネパールの未踏峰・パンバリヒマール(6887メートル)とディンジュンリ(6196メートル)を初登。大学卒業後は山岳コンサルタント会社に就職、テレビ番組の山岳カメラマンとしても活躍した。平出さんも同じころ、個人的に山での撮影の仕事を受け始めていた。

2人が初めて海外の山に一緒に登ったのは2014年、ミャンマー最高峰のカカボラジ(5881メートル)北稜の新ルート。このときリーダーを務めた山岳ガイドの倉岡裕之さん(63)は、2人の装備が「あまりに少なかった」ため、「(確保用の)フィックスロープ2本ぐらいは持っていったら」と声をかけると、「今の時代、フィックスなんか持っていったら登山じゃないですよ」と平出さんが真顔で言ったのを覚えている。

結果的には天候悪化に加え、ロープ不足もあって5670メートルで撤退したが、倉岡さんは2人のこだわりや登り方が「よく分かった」という。未踏のラインを見いだす卓越したセンスを持つ平出さんは司令塔、馬力ある中島さんがルートを開く。「あの2人だからこそやれた登攀だった。ずば抜けていた」と悼んだ。

おごらない謙虚さは、2人に共通していた。中島さんの妻は事故後、「トップクライマー」と称されていた中島さんが常々、「ただの登山愛好家や」と話していたことを夫の交流サイト(SNS)につづった。数々のトロフィーや賞状は大切に押し入れにしまいこんでいたといい、「ただただひたむきに、山を楽しんでおりました」としのんだ。(木村さやか)

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