妻子失い「踏ん切りつかない」78歳男性、追悼式へ 名勝「白米千枚田」復旧を支えに
産経ニュース / 2024年12月30日 20時55分
自然の猛威が家族の運命を分けた「あの日」から1年。元日の能登半島地震で石川県輪島市の自宅の裏山が崩れ、妻の正子さん=当時(74)=と帰省中の長男、博文さん=同(49)=を亡くした出口彌祐(やすけ)さん(78)は「踏ん切りはつかない」と胸の内を明かす。地震から1年となる1月1日には、次男(47)らと市内で開かれる県主催の犠牲者追悼式に参列し、2人をしのぶ。
輪島市内の仮住まいのアパートでは、仏壇のそばに妻と長男の写真を飾る。「愚痴を言う相手もいなくて物足りない」。30日、取材に応じた出口さんは、年の瀬を2人と一緒に過ごせない寂しさを漏らした。
あの日の午後、輪島市渋田町の自宅を出て、帰省した次男を車で迎えに行った。合流して神社に立ち寄った際に地震が起きた。車で帰路を急ぐ途中、さらに激しい揺れに見舞われた。
自宅へと続く国道は土砂にふさがれ寸断。車を降りてたどり着くと、自宅は崩れた裏山の土砂に巻き込まれていた。周辺は一時孤立し、捜索も難航。約半月後、2人は遺体となって見つかった。最期を想像すると、今でも「怖くなかったか。痛くなかったか」との思いが頭をよぎる。
心の支えとなったのが、日本海に面して棚田が連なる国名勝「白米(しろよね)千枚田」での農作業だ。1千枚余りの棚田には亀裂が入り、水路も壊れたが、副代表を務める「白米千枚田愛耕会」の仲間とともに修復した。
一部で田植えにこぎつけ、9月初めの収穫には県内外の「棚田オーナー」も駆け付けてくれた。しかし、直後の9月21日には豪雨で千枚田でも土砂崩れなどが起きた。「雨の方が被害が大きかった」と嘆く。
最近、崩れた自宅の裏山から土砂を取り除く計画があると連絡を受けた。「家を建てるかどうかは別として希望が出てくる」。久しぶりに前向きな気持ちになれた。
地震から間もなく1年。かけがえのない家族を失った悲しみは癒えず、「まだ踏ん切りはつかない。これからも同じだろう」と声を落とす。追悼式では「今までありがとう。安らかに眠ってほしい」と2人に手を合わせるつもりだ。
来春には仲間らとともに千枚田での田植えに向け、現場の修復を含め準備を本格化させる。「(天国の)2人にも、千枚田での成果を見てほしい」。自らを奮い立たせるように言葉に力を込めた。(吉田智香)
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