1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

首都直下地震なら被害額「国家予算9年分」も…能登、阪神で潰えた道路網、水道も対策途上 備えあれ①基盤力

産経ニュース / 2025年1月1日 7時0分

倒木や岩、緊急車両の行く手阻む

1年前の元日、最大震度7の激震が厳冬の能登半島を襲った。道路インフラ(基盤)が壊滅し、倒壊家屋の下敷きになった人々を救うため一刻を争う緊急車両の行く手を阻んだ。

「穴を埋めて倒木を切り、大きな岩を重機で(端に)寄せて進んだ」

緊急消防援助隊として石川県で活動した大阪市消防局の特別高度救助隊隊長、田中真也(46)は、道路亀裂や土砂崩れによる交通網寸断の惨状を振り返った。半島縦断移動の要といえる自動車専用道「のと里山海道」や能越自動車道は機能不全に。通行止めは石川県の管轄だけで最大42路線87カ所に広がった。

国は令和3年度以降、国土強靱(きょうじん)化対策を加速させ、災害時の道路機能強化に毎年度2千億円以上の予算を積み増した。目標は緊急車両の通行を1日以内で、一般車の通行は1週間以内で確保すること。高速道などの未整備区間「ミッシングリンク」の解消と暫定2車線区間の4車線化を進めていたが、能登半島では対応が追い付かなかった。

道路を含む土木関連の被害総額は石川県と市町の管轄で計約1兆200億円。近年の県予算の6千億円台を優に上回る。「数年で復旧できるような被害ではない」。県土木部河川課の担当課長、大井秀紀(53)は語る。

大都市部での地震、被害甚大に

巨大地震が東京や大阪などの大都市を襲えば、インフラ被害はさらに甚大になる。阪神高速道路の橋脚が横倒しになった30年前の阪神大震災は、インフラ施設被害が総額約2兆2千億円に上った。金額的には被害が広域に及んだ東日本大震災と同規模だ。

政府の中央防災会議は平成25年、道路を含む公共部門の被害額について、今後想定される首都直下地震で最大4兆7千億円と推計する。30年以内に70~80%発生するとされる南海トラフ巨大地震は、内閣府が令和元年に再計算し、最大24兆6千億円とみる。

ただ、安倍晋三政権時代に内閣官房参与を務め、国土強靱化を提言した京都大大学院教授(都市社会工学)の藤井聡(56)は、東日本大震災の復興状況の分析を踏まえ、こう強調する。

「ひとたび巨大地震が起これば、長期的な経済的被害は最大で1千兆円を超える」

南海トラフ巨大地震は「1800兆円近く」も

地震による道路や橋などのインフラ被害は、長期的に見るほど深刻になる。土木学会は令和6年3月、首都直下地震による約20年間の経済的被害が1001兆円となる試算を発表した。建物被害に加え、交通網寸断による生産停止なども含むが、国家予算の約9年分に相当する額だ。

学会の試算では、道路網の整備や電柱の地中化、橋梁(きょうりょう)の耐震化に21兆円以上を投じれば、被害が369兆円分減り、復興年数も5年以上短縮できるとする。だが、事前対策を現状のペースで進める場合、完了には55~65年かかるという。

試算した学会の小委員長で京都大大学院教授の藤井聡は「対策をとればとるほど復興費用は縮減される」と指摘する。南海トラフ巨大地震の経済被害も、近く政府が公表する被害想定を基に試算を出す予定だが、「1800兆円近くになりかねない」と警告する。実に国家予算の約16年分だ。

国難に等しい地震に備えるため、藤井は今後10~15年で対策を完了させるよう提言する。「道路機能を維持できれば、すぐ救援に入れるし物資も運べる。早く物流も回復できれば暮らしも取り戻せる」と強調する。

水道耐震化も途上、「社会受容浸透を」

災害後の生活再建に、道路とともに欠かせないのが、電気やガスといった生活インフラ(ライフライン)だろう。中でも水道は復旧に時間がかかり、阪神大震災では全戸通水に3カ月を要した。能登半島地震では一部を除く「ほぼ復旧」に5カ月もかかり、特に中山間地域での水道耐震化の遅れが浮き彫りとなった。

政府は、導水管や送水管などの基幹管路について、震度6強レベルに耐える耐震適合率を令和7年度末に全国平均54%にする目標を掲げる。だが、4年度時点で42・3%にとどまり、目標達成のハードルは高い。

神戸大大学院教授(ライフライン地震工学)の鍬田(くわた)泰子(48)は、都市部を中心に基幹管路の対策が進んでいるとしつつ、「水道もネットワークである以上、どこかに被害があれば停止する。一体的に耐震化しないと機能しない」と限界を指摘する。

平成30年6月、最大震度6弱の大阪北部地震では最大9万4千戸が一時断水した。うち8万6千戸に影響した大阪府高槻市では、老朽化した送水管の破損が原因だった。

鍬田は「国費を充てられる道路と違い、水道は各自治体の独立採算。低い料金を維持しようとして更新が進まない面がある」とし、耐震化を進めるには「住民に説明を尽くし、費用負担の社会受容を浸透させるべきだ」と訴える。選択肢は限られているのだ。(敬称略)

今年で阪神大震災から30年。その後も列島では地震が相次ぎ、1年前には能登半島地震も起きた。巨大地震のXデーに備え、災害大国に不可欠な「力」とは何かを考えたい。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください