能登地震1年「関連死防ぐ」と半島巡り続けた医師 原点は阪神大震災、次の災害備え日記
産経ニュース / 2024年12月27日 19時50分
避難生活での心身の負担を原因とした災害関連死を少しでも防ごうと、元日に能登半島地震が起きた直後から、避難所や仮設住宅を巡って健康観察を続ける医師がいる。1年近くにわたる活動をつづった日記には、今後の災害に生かすことを目指し、感想や教訓をつぶさに記す。活動の原点にあるのは、出身地が被災した30年前の阪神大震災だ。
《さまざまな葛藤とともに行動をした。もう起きてほしくないが、〝その時〟の準備対策に役立てていただきたく、今回の顛末(てんまつ)をここに記す》
金沢医科大氷見市民病院(富山県氷見市)の医師、小畑貴司さん(54)が日々の活動を記したノートの冒頭には、こうつづられている。
小畑さんは地震の3日後から氷見市内の避難所で健康観察を実施し、以降も石川県穴水町や輪島市で指導にあたった。専門は血管外科。足の静脈にできた血の固まり(血栓)が血管を流れ、肺の血管に詰まって肺塞栓などを誘発する「エコノミークラス症候群」の予防に特に力を入れてきた。
避難所での共同生活では、長時間動かなかったり、トイレの回数を減らすため水分摂取を控えたりする被災者も多く、血流が悪くなって同症候群のリスクが高まるとされる。小畑さんは被災者に歩いたり体操したりするよう呼びかけ、ふくらはぎなどに適度な圧力をかけて血液の滞りを防ぐ「弾性ストッキング」の着用をすすめてきた。
活動の原点は、平成7年1月の阪神大震災だ。当時医学生で兵庫県外で暮らしていたが、実家のある淡路島が被災し、知人も亡くした。被災者の大半は体育館で雑魚寝する生活だった。仮設トイレの設置も遅れ、体調を崩す人が続出。避難所の劣悪な環境や災害関連死の問題が認知されるきっかけとなった。
医師となっても16年の新潟県中越地震や28年の熊本地震での症例報告に接し、長期間の避難生活や車中泊が原因で同症候群になるのだと実感した。「災害関連死を一人でも防ぎたい」との思いがますます募った。
その中で発生した能登半島地震。すぐに活動に乗り出し、関連死予防の大切さを訴えた。被災者の理解も徐々に深まり、同じ現場で健康観察にあたった保健師からも「当初は(同症候群のことが)頭になかったが、声をかけてくれてよかった」と感謝された。
だが、被災地が前を向き始めていた9月下旬、能登半島を未曽有の豪雨が襲った。直後の健康観察では多くの被災者から意気消沈した声を聞き、複合災害が与えた被害の甚大さを切実に感じた。
《「もうため息しか出ない」「もう悲しいわ」と語ってくれた。突然の災害だけどやり切れない思いを感じた》。9月29日付の日記にこう書き残した。
地震から間もなく1年。今後も被災地で健康指導を続け、関連死の防止を目指す。「避難生活が長期化し、精神的なケアも重要になってきている」とし、息の長い支援の必要性を訴える。日記も継続し、災害医療の研修会などで内容を共有していくつもりだ。
近年、列島各地では災害が相次ぎ、いつ「第二の能登半島」が生まれてもおかしくない。南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表された8月には、日記に《いま一度「備える」こと、「動ける」ことを考えておきたい》とも記していた。小畑さんは「いざという時の対策に(日記を)役立ててもらいたい」と語った。(秋山紀浩)
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