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広島土砂災害から10年 改正法で警戒区域指定拡大も、後を絶たない被害 

産経ニュース / 2024年8月20日 6時30分

関西大学社会安全学部・山崎栄一教授

豪雨などの際に災害が発生し、住民の生命に危険が生じる恐れがある「土砂災害警戒区域」。20日で発生から10年となる広島土砂災害では、区域の指定作業が間に合わずに甚大な被害が生じた地域もあった。教訓を踏まえた法改正によって指定作業が進み、警戒区域は災害前に比べて全国で約2倍の約70万カ所に拡大。災害リスクの周知が進んできたが、区域内には依然、住宅などが立ち並ぶ。自然災害にどう備えるかの課題は残っている。

警戒区域は土砂災害防止法に基づき、都道府県が危険箇所を基礎調査した上で指定。急傾斜地のふもとなどが対象で、ハザードマップの配布などを通じて地域住民に周知する。さらに危険度が高い「特別警戒区域」に指定されると、開発に制限が加わる。

平成26年8月20日未明に発生した広島土砂災害では、住宅街に流れた土砂が多くの市民をのみ込んだ。甚大な被害を受けた広島市安佐(あさ)北区と安佐南区の住宅地は、山のふもとに位置する。県は危険性が高いと判断し、警戒区域に指定する方向で地形や地質の基礎調査を終えていたが、作業が遅れ、災害リスクを広く周知できていなかった。

事態を重く受け止めた国は同法を改正し、平成27年1月に施行。以前は多くの都道府県で、対象エリアの地元合意を経た上で警戒区域に指定していた。災害リスクが公表されることで土地価格の下落や風評被害を招くという警戒感から、指定が進まないケースもあった。

改正法では基礎調査後、速やかに結果を公表し災害リスクを周知することが義務付けられ、都道府県は地元合意がない段階でも、警戒区域への指定を優先させるようになった。

この結果、指定作業は急速に進み、全国でほぼ終了。国交省によると、平成25年度末に34万9844カ所だった指定区域は、令和5年度末に69万3675カ所と倍増した。警戒区域の中には住宅なども多く、国交省砂防課の担当者は「市町村や住民が、居住地の危険性を正しく認識できるようになった」と法改正の意義を強調する。

ただ、警戒区域内の災害被害は後を絶たず、住宅の安全確保などに課題も残る。広島県では土砂災害特別警戒区域を「市街化調整区域」とし、開発を抑制する独自の取り組みを令和3年に開始。他の自治体にも広がりをみせつつある。

同県砂防課の担当者は「10年前の災害を教訓にした。将来的には災害リスクが高い地域には住民が居住しない仕組みをつくり、同様の災害で犠牲者が出ない都市を目指す」としている。

災害時の避難情報の伝達でも改善が図られている。

国は令和3年、土砂災害や水害などの危険度を示す5段階の警戒レベルのうち、レベル4の「避難勧告」を廃止して「避難指示」に一本化。避難に要する時間を確保できる場合は「避難勧告」、確保が困難なほど危険が迫っている場合は「避難指示(緊急)」と分けていたが、「指示の前の勧告なら逃げる必要がないとの誤解を招く」(自治体関係者)ことが大きな理由とされる。

これまで避難勧告を発令していたタイミングで避難指示を出す運用に改めているが、今後も周知を徹底する必要がある。(土屋宏剛)

記憶や教訓を次世代へ

地震や豪雨などの災害による被害が相次ぐ中、記憶や教訓を次世代に引き継ぐことは大きな課題だ。そうした減災や防災につなげることを目的とした伝承施設が、全国各地で開設されている。

10年前の広島土砂災害を伝える「広島市豪雨災害伝承館」。住民の要望を受け、甚大な被害を出した同市安佐南区八木3丁目で昨年9月に開館した。

2階建てで延べ床面積は約500平方メートル。パネル展示で土砂災害のメカニズムや備えのポイントを解説するほか、土石流のCG映像や被災者のインタビュー映像なども視聴できる。屋外ではかまどベンチでの炊き出しを体験することもでき、同館は「自然災害への知見を深めることで、もしものときに命を守り抜いていただきたい」とのメッセージを発している。

6434人が犠牲となった平成7年の阪神大震災の教訓を伝える「人と防災未来センター」は、震災7年後に神戸市中央区で開館した。被害の様子を原寸大で再現したコーナーが設けられたほか、語り部による講話なども実施。全国各地で起きた地震についても調査を進め、減災や防災に役立てている。

23年の東日本大震災を伝える施設は、岩手県陸前高田市と宮城県石巻市にそれぞれ設けられ、津波の映像や被災者の証言などを紹介しているほか、復興の歩みなどについても解説している。(岡嶋大城)

災害リスクの周知徹底を 山崎栄一・関西大社会安全学部教授(災害法制)

かつては土地価格の下落への懸念などから地元の反発に遭い、土砂災害警戒区域への指定が難航することもあったが、広島土砂災害を機に土砂災害防止法が改正され、災害リスクの周知が優先されるようになった。この10年で指定作業は全国的にほぼ完了したが、一部未指定の区域が残る。都道府県側には、人命優先で速やかに作業を前に進めることが求められる。

とはいえ法律上、警戒区域での開発が完全に禁じられているわけではなく、区域内に民家などの建物が立ち並ぶ例は珍しくない。日本は国土が狭く、災害リスクが極めて低い場所だけが開発を許容されるというルールは非現実的であり、地域の利便性などを考慮した場合、ある程度のリスクは引き受けざるを得ない場合もある。

ただ、そうした区域で生活を営む人々に対して都道府県側は、災害リスクに加えて災害時の避難先や行動手順に関する情報の周知を徹底しなければならない。行政側と住民側の双方が日ごろから危機感を共有し、いつ訪れるかわからない災害に備えることが重要だ。

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