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阪神大震災が災害ボランティアの萌芽に 被災地に殺到という批判も 重要なのは「調整力」 備えあれ③奉仕力

産経ニュース / 2025年1月4日 7時0分

30年前の厳冬、未曽有の激震が神戸を襲って数日後。兵庫県災害対策本部の報道担当だった高橋守雄(76)は、訪れた避難所で「見慣れない光景」を目にした。肌を刺す寒さの中、全国から駆け付けた多くの人たちが避難所の運営を手伝い、物資を配布していたのだ。今や当たり前となった災害ボランティアの「萌芽(ほうが)」だった。

全国から集まるボランティア 「心強い」

平成7年1月の阪神大震災で集まったボランティアは、県の推計によると発生1カ月で延べ約62万人。2カ月で同約100万人と驚異的な数字だ。高橋は「高速道路が寸断されたので、リュックを背負い、自転車やバイクで全国から駆けつけてくれた。心強かった」と振り返る。阪神大震災が「ボランティア元年」と呼ばれるゆえんだ。

発生当初のボランティア活動は食料配給や救助活動などが中心だった。発生から1カ月を経て次第に高齢者や子供の心のケア、家の片付けといったソフト面の支援も担うようになる。

ただ、次々に被災地を訪れるボランティアが一部避難所に集中したり、宿泊先の手配などを行政側に求めたりして現場は混乱した。県が7年2~3月、避難所の管理者に実施した調査でも、ボランティアを巡って困ったことを聞くと、「突然来る、帰る」との回答が7割近くを占めた。

高橋はこの経験から震災後、自ら災害ボランティアとして活動する傍ら、ボランティアの環境整備にも力を注いだ。23年の東日本大震災では「阪神での反省を生かしたい」と津波で甚大な被害を受けた被災地の人たちに代わり、ボランティアを差配する役割を担って混乱を防いだ。

「ボランティアの大衆化」と課題

「もともとボランティアは1万人に1人が行う『少し変わった行動』という認識だった」。京都大防災研究所教授(防災心理学)の矢守克也(61)は指摘する。その意識を一転させたのが、150万人都市・神戸を壊滅させた震度7の激震だった。

全国からボランティアが殺到し、「一気に大衆化された」ことで混乱という課題が浮き彫りになった。7年12月に改正された災害対策基本法では、行政がボランティア活動の環境を整えるよう明記された。

矢守は言い切る。

「阪神大震災以降、ボランティアを取り巻くキーワードはコーディネーション(調整)だ」

自粛ムード拡大 SNSでの批判も

能登半島地震が起きた昨年1月、各地の道路は寸断され、車の渋滞が深刻化していた。「個別のボランティア、不要不急の能登への移動は控えてほしい」。石川県知事の馳(はせ)浩(63)が同月5日にこう呼びかけたのは、被災地の混乱防止も念頭に置いてのことだ。

翌2月に入っても県は同様の発信を続けた。ボランティアが独断で被災地に入れば交流サイト(SNS)で批判され、「今は控えよう」というムードが広がった。

県は復旧状況をみて徐々に受け入れを拡大したが、全国社会福祉協議会のまとめでは、発生3カ月後の段階で活動したボランティアは延べ約5万人。3カ月で延べ約10万人が活動した平成28年熊本地震の半分だ。被災地では「誰も来てくれない」と嘆く声もありながら、馳は昨年5月の会見で「当時の発言は正しかった」と強調した。

とはいえ、善意の「取りこぼし」があっていいのか。兵庫県職員時代に阪神大震災を経験した「全国災害ボランティア支援機構」代表理事の高橋守雄は「本来ボランティアは自発的な活動。行政が『来るな』『来い』とコントロールするのは違う」と指摘する。

重要性を増す調整役 ワンチームで立ち向かう必要も

一方で殺到すれば混乱を招くのも事実。そこでボランティアと被災者のニーズ(要望)を調整し、混乱を防ぐのが、各地の社会福祉協議会などが運営するボランティアセンター(VC)だ。

VCが本格化したのは、新潟県中越地震など災害が相次いだ平成16年。1年間で87のVCが設置された。23年の東日本大震災では、避難所運営などの専門技能を持ちながら地縁のない支援団体と被災者、行政の調整窓口となる「災害中間支援組織」にも注目が集まった。今では23都道府県に広がり、能登半島にも入った。

組織間を調整する「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)」の事務局長、明城(みょうじょう)徹也(54)は「大規模災害では行政やボランティア、支援団体も体制や人的資源が十分でないことがある。支援の漏れを防ぐ調整役は重要性を増している」と話す。

阪神大震災から30年。ボランティアは試行錯誤を経て成熟化へと進むのか。矢守は「善意による自発的な活動と、行政などと呼吸を合わせた活動。今やボランティアはどちらの要素も欠かせない。行政や被災者を含む『ワンチーム』で立ち向かう必要がある」と強調した。(敬称略)

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