鋭い視線とユーモアと 「耳かき一杯の毒を盛る」 「産経抄」の石井英夫さん死去
産経ニュース / 2024年12月29日 18時56分
新聞の名コラムニストといえば、「天声人語」(朝日新聞)の深代惇郎さんの名前がよく挙がる。ただ執筆の期間は2年9カ月と短かった。
石井英夫さんは昭和44年から平成16年まで実に35年間、産経抄を書き続けた。「短距離の深代、長距離の石井」と評した朝日の記者がいた。
「毎日書くのは大変でしょう。書きだめはなさらないの」。さる高貴な人たちの集まりに招かれ質問された。「いや、一日に何度もウンコするのは大変です」と答えてひんしゅくを買った。「それからは呼ばれなくなったな」。いたずらっ子のような石井さんの笑顔を思い出す。
優に1万本を超える産経抄のなかで、あえて1本をと問われて、石井さんは「何もしたくなかった日」と題したコラムを選んだ。
ある秋の日曜日、キンモクセイの香りが漂う自宅近くを散歩した。翌日のコラムのネタを考えなければならないが、途中でどうでもよくなり、ムカゴを拾って帰った。
ただそれだけの内容なのだが、読んでいてこちらも秋の日差しの輝きに包まれて、心豊かな「黄金の一日」を過ごした気分になる。名コラムたるゆえんである。
「ペンを短く、鋭く、素直に書く」。「常に耳かき一杯ほどの毒を盛る」。「一輪の花の美しさを表現する難しさに比べたら、政治家の悪口なんぞはねそべっていても書ける」。
石井さんの説くコラムの心得は肝に銘じてきたが、実践できたためしがない。
石井さんがコラムニスト卒業後に作った名刺には、「家事手伝い」と書かれていた。産経抄でそのことを紹介すると、早速電話がかかってきた。
「ヒヒヒ、職歴詐称の石井でございます」
あのガラガラ声がもう聞けない。(田中規雄)
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