「未必の故意」はあったか、自作爆弾の威力認識が焦点に 和歌山首相襲撃事件の裁判始まる
産経ニュース / 2025年2月4日 21時16分
令和5年4月、岸田文雄前首相の演説会場に爆発物が投げ込まれた事件で、殺人未遂罪などに問われた木村隆二被告(25)の裁判員裁判が4日、和歌山地裁で始まった。主な争点は殺意の有無。検察側は人が死んでも構わないという「未必の故意」があったと主張、弁護側はこれを否定し、要人を狙った政治テロではないとも訴える。自作爆弾の威力を被告がどこまで認識していたかが、判断のポイントになりそうだ。
危険性認識か 真っ向対立
冒頭陳述や証拠調べなどによると、被告は4年11月以降、兵庫県川西市の自宅などで黒色火薬564グラムを調合。管の形状をした鉄鋼製品に火薬を入れて両端をふたでふさぎ、そこに導火線を取り付ける「パイプ爆弾」を2個自作した。材料は近くのホームセンターやインターネットで購入。携帯電話には黒色火薬に関する検索履歴があり、5年1月には黒色火薬にたばこを近づける動画を視聴していた。
現場の応援演説会場では、岸田氏まで約10メートルの距離に接近。右手で爆発物1個を投げ込んだ。爆風で吹き飛んだ本体部分は約40メートル離れた倉庫に当たり、ふたの部分は、倉庫からさらに約20メートル先のコンテナにめりこんだ。
こうした事実関係については、検察と弁護側に大きな争いはない。焦点はこの自作爆弾に対する被告の危険性の認識だ。
和歌山県警は起訴前に爆発物の威力を調べる再現実験を実施。検察側はこの実験結果や、直撃していた場合に人体に与える影響を法医学者に証人尋問することにより爆発物の殺傷能力を裏付け、被告に積極的殺意がなくても、人が死んでも構わないとの未必の故意があったと立証する方針。
一方の弁護側は、被告が事件の前月、自宅近くの山林で爆発の程度を確認する実験を行っていたと明かし、「人を傷つける危険性を感じていなかった」と反論した。
訴訟起こし「世襲」批判
もう一つの焦点は事件の動機だ。被告が事件前、現行の選挙制度が違憲だとする訴訟を起こし、岸田氏らを「世襲政治家」と繰り返し批判していたことは判明していた。捜査段階では黙秘したため、関連性は判然としなかったが、この日の審理で密接に関連することが弁護側から明かされている。
もっとも弁護側は「自分の考えに注目を集めよう」と事件を思い立ったとする。爆発物は自身の選挙制度に対する持論に関心を持たせるためのいわば花火のようなもので、岸田氏を殺傷しようとしたものではない、との主張だ。
検察側はこの日の冒頭陳述で動機に関して明確な言及はしなかったが、今回の事件を「現職総理を狙ったテロ」と位置付けており、選挙制度への不満から犯行に及んだと立証するとみられる。
6日の第3回公判では被告人質問が予定されており、何のために爆発物を自作したのか、本人の口から詳細に語られる可能性がある。
安倍事件「模倣犯」指摘も
岸田文雄前首相襲撃事件を巡ってはその発生当初から、前年7月に起きた安倍晋三元首相銃撃事件の「模倣犯」としての側面が指摘されてきた。要人が不特定多数人の面前に立つ国政選挙の街頭演説に狙いを定めた点、さらに自作凶器を用いた単独犯(ローンオフェンダー)という犯行態様も共通していた。
政治家が標的とされる事件は程度の差はあれテロとしての性質を帯びる。安倍氏の事件で起訴された山上徹也被告(44)は自民党と旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)との関係性を問題視し、教団側に間接的に打撃を与えるため犯行に及んだとの見方がある。
岸田氏を襲撃した木村隆二被告は、襲撃の4日前に自身のものとみられるツイッター(現X)のアカウントに《組織票や宗教票が幅を利かせることになり、一部の為の政治が行われ、世襲と腐敗が再生産されます》との書き込みを残しているほか、安倍氏や岸田氏を「世襲政治家」と繰り返し非難している。
要人警護の不備を突いたのも共通点だ。警察庁は安倍氏の事件の反省を踏まえて警護の運用方法を定めた「警護要則」を全面改定。警察庁による警護計画の事前審査制を導入したが、その審査を経た和歌山の演説会場で岸田氏への襲撃を許した。主催者側と警察との連携不足や、負傷者を出す結果となった聴衆の安全確保をどう担保するか、新たな課題に直面している。
ネット有害情報 続く拡散
岸田文雄前首相の襲撃事件で、木村隆二被告が投げ込んだパイプ爆弾は一般に流通する材料を用い、インターネットの情報も参考にして自作したとみられる。犯人の手製銃が使われた前年の安倍晋三元首相銃撃事件に続く有害情報の悪用。警察当局は規制に乗り出しているものの、実効性には課題が残る。
ネットの有害情報に対応する「インターネット・ホットラインセンター(IHC)」は安倍事件後の令和5年2月、有害投稿として削除を要請する対象に「爆発物・銃器等の製造」を加えた。
また岸田氏の事件発生後の同年9月、警察庁はサイバーパトロールに人工知能(AI)を導入し、SNS(交流サイト)上の投稿の監視を強化。昨年6月には銃刀法が改正され、銃の製造方法を解説する動画や設計図をアップするなど悪質な投稿も罰則の対象とした。
ただ国内サイトを規制しても、海外サイトや匿名性の高い「ダークウェブ」上では現在も爆弾の製造方法が拡散され続けている。ある警察幹部は「現状の規制では効果が限定的だ」と話す。
火薬原料はホームセンターで販売されている肥料などから抽出できるが、こうした日用品への規制も現実的ではない。警察庁は爆発物原料になりうる化学物質を販売する事業者らに、適正管理を求める通知を出すなど注意喚起を図っている。
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