夕日バックにマッチョ警官がラップ、職質に本部長が同行 「警察ユーチューブ」盛況
産経ニュース / 2024年10月14日 10時0分
全国の警察で動画サイト「ユーチューブ」を活用する動きが進んでいる。歌やラップ、ドラマ仕立てなど趣向を凝らした内容で、交通事故や特殊詐欺などの犯罪に遭わないよう啓発。交流サイト(SNS)で話題になり再生回数が30万回を超えるものもある。防犯に加えて堅苦しいと思われがちな警察のイメージを払拭し、採用にも役立てたい考えだ。
哀愁漂うライム
「♪正直楽とは言いがてえ」「♪努力の分だけ治安に正比例」
制服・制帽姿でサングラスをかけた筋肉質の男が、砂浜で夕日をバックに軽快なラップを繰り広げる。千葉県警公式ユーチューブチャンネルで8月末に投稿された動画だ。
ラッパーの正体は、県警広報県民課の男性(現在は異動)。「警察という職業の素晴らしさを伝えたい」と、業務のやりがいや犯罪撲滅にかける思いを、自ら作詞した。ライム(韻を踏むこと)から、かすかに漂う哀愁も視聴者を引きつける。
チャンネル運営の中心となっているのは広報県民課の4人だ。永田賢一警部補は「警察は堅苦しいイメージがあるので、身近に感じてもらえるような作品を作ることを意識している」。ラップも、警察業務に関心の薄い若者をターゲットにした動画の一つという。
編集作業の中心を担う大山瑞穂さん(24)は「尖った動画でないと目を引かない」としつつ「面白おかしくに偏りすぎず、興味を持ってもらう『とっかかり』になるようなギリギリのラインが大事」と強調する。
県警本部長も出演
県警が動画での情報発信に力を入れる背景には、志望者数の減少がある。令和元年は4016人が採用試験に応募したが、5年度は3140人。倍率も3・1倍と最も低かった。工夫を凝らした動画を発信することで、若者の関心を高めたい考えだ。
業務への理解を深めるための動画も積極的に投稿。実際の職務質問の様子を紹介する動画では、「税金泥棒がよ!」「てめえらホントにさ、もっと犯罪者捕まえろよ!」など警察官が厳しい声を浴び続けながらも、職質対象者に毅然(きぜん)と対応する緊迫感あふれる様子が映し出されている。
これに同行したのが、宮沢忠孝本部長。県警トップである本部長自ら職務質問の現場に出向くのは、極めて異例だ。制服姿の宮沢本部長は動画で「職務質問は県民の安心安全を守る上で最大の武器。県警全体の一層のレベルアップを」と激励した。
警察活動のリアルを映したこの動画は、9月17日の公開から1カ月もたたず4万回以上再生され、反響も大きいという。
永田警部補は「少しでも多くの人に警察の活動を知ってもらい、警察官になりたいという人が1人でも増えてくれればうれしい」と話した。
警察官ユーチューバー
警察の公式ユーチューブチャンネルで最も多い登録者数(約6万人)を誇る警視庁のキラーコンテンツも、全国初の警察官ユーチューバーが活躍する「メトポリ」だ。
警視庁公式チャンネルは平成28年3月に開設されたが、堅苦しいイメージや認知されづらいといった悩みがあり、広報課内で活用に向けた議論を重ね、警察官をユーチューバーとして起用する案が決定した。
令和4年11月に初めて動画を投稿し、9月26日時点で動画45本、ショート動画22本を公開。企画は出演する広報課の吉田直矢巡査長ら、課内でアイデアを出し合う。最近では警視庁内の各部から依頼を受けて制作するものもあるという。
新入り警察犬を特集した回は評判が高く、再生回数は17万回に上った。警視庁の知られざる仕事も紹介している。
警視庁広報課は「他県警とのコラボ動画も実現できたらと思います。視聴回数と高評価を励みに、楽しみにしていただける動画制作に取り組みたい」としている。
ほとんどの都道府県警で導入
ユーチューブを確認したところ、全国の警察で公式チャンネルを持っているのは43都道府県警、採用や音楽隊、広報のチャンネルを運用しているのは3県警。1県警を除いた都道府県警で、何らかのユーチューブを展開していた。
栃木県警では、栃木出身のお笑いコンビ「U字工事」の警察学校体験が再生回数21万回と人気だ。ドラマ仕立てで飲酒運転の悲惨さを訴える山梨県警の「後悔 ~飲酒運転の果てに~」の再生回数は30万回に上る。
広島県警が10月7日にアップした「SNS型詐欺防止の歌」はSNSで話題になり、11日時点で再生回数は7万回を超えた。
保育園児の歌に合わせて警察官がシュールなダンスを披露。「♪会いたい 結婚 金送れ」や「♪言葉巧みに持ちかけて 有名人にもなりすまし 現金送ってだまされて」という歌詞でSNS利用のロマンス詐欺や投資詐欺への警鐘を鳴らしている。(大渡美咲、松崎翼)
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