インバウンドの影で増加する来日外国人犯罪 年間5千人超摘発、検察当局も陣容強化へ
産経ニュース / 2025年1月19日 11時0分
インバウンド(訪日外国人客数)が昨年、過去最多となる中、来日外国人による犯罪増加が検察当局の重点課題として急浮上している。検察幹部は「警察や海上保安庁など、関係機関との連携を一層深化させたい」と指摘。来年度からさらに陣容を強化し、摘発を推進していく方針だ。
軒並み増加
観光庁によると、インバウンドは令和6年11月の推計値で3337万9900人と、新型コロナウイルス禍前の元年に記録した3188万2049人を抜き、過去最高を更新した。政府は2030(令和12)年までに6千万人に引き上げる目標を掲げている。
一方、法務省の犯罪白書によると、減少傾向にあった不法残留者は5年(5月1日時点)に増加に転じ、6年(同)は7万9113人と前年比12・2%増に。5年の来日外国人の摘発者数(刑法犯)も5735人で同14・4%増えた。
罪名別では、最も多かった窃盗(61・2%)と2位の傷害・暴行(12・5%)で、7割超を占めている。摘発者を国籍別にみると、窃盗がベトナム836人▽中国571人▽ブラジル122人-の順。傷害・暴行は中国329人▽ベトナム181人▽ブラジル113人-だった。
ベトナム人が急増
警察庁の統計によれば、5年に摘発された外国人5735人のうち、国籍別のトップはベトナム人で1608人。3割弱を占め、2位の中国人(1231人)を引き離している。
中国人は永住者が元々多く、ブラジル人は日系人も多いが、ベトナム人は来日者数が急増している。入管関係者は「ベトナムは政治が安定したことで外国資本が流入し、景気が上昇。海外旅行者も後を絶たない」と解説する。
比例して犯罪で摘発されるケースが増加している格好だが、捜査幹部はベトナム人の犯罪について「二極化している」と指摘する。
典型的な手口は、ファストファッション・チェーンの衣料品やドラッグストア・チェーンの化粧品、医薬品を狙う大量の万引だ。日本食ブームに伴う旅行熱の高まりを隠れみのに、ベトナムから渡航し万引をした後、すぐに帰国するヒットアンドアウェー型の窃盗団が、活動を活発化させているという。
また、日本に住んでいるベトナム人も、円相場が急落したことから外貨建てでの収入が下落。SNS(交流サイト)のベトナム人コミュニティーで募集している闇バイトを通じ、強盗や窃盗に手を染める「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」に加わるケースが増えた。
捜査関係者は「日本食ブームと歴史的な円安がベトナム人の組織犯罪を急増させている事実は否定できない」としている。
トクリュウにも外国人
検察当局で外国人の事件を扱うのは、各地検にある外事係だ。東京・大阪の両地検では、長らく刑事事件を扱う刑事部にあったが、現在は公安部にある。
左翼などの思想事件が下火になり、警視庁や警察庁は平成15、16年に組織犯罪対策部門を設置した。これを受けて検察当局も公安部の機構を改編。思想犯は公安係のみで担当し、外国人犯罪は外事係、大麻や覚醒剤は麻薬係、暴力団や半グレ(準暴力団)などは暴力係が担当する、事実上の「組織犯罪専門部署」に衣替えした。
実際、警察庁によると、組織犯罪の一形態として近年台頭してきたトクリュウには、外国人犯罪組織も含まれる。
トクリュウといえばSNS(交流サイト)や秘匿性の高い通信アプリなどを駆使した闇バイト強盗団や特殊詐欺グループが有名だが、銅線やマンホールなどの金属窃盗団、自動車盗グループには外国人犯罪組織も確認されている。
若者の間で急激に広がる大麻の密売でも、離合集散する出身国別のグループや日本人グループが多国籍で連携し、暗躍しているという。
ICT活用で捜査支援
こうした外国人犯罪の捜査指揮体制は、最高検公安部と東京、大阪両地検公安部のラインが中心。情報通信技術(ICT)やサイバー犯罪に対処する最高検の「先端犯罪検察ユニット(JPEC)」、東京、大阪両地検特捜部にあるデジタル解析部門の全面支援を受ける形で、強化が図られるとみられる。
昨年12月には、検察入庁時から外事係を任された外国人犯罪のエキスパートである小池隆検事が、最高検公安部トップの公安部長に就任した。
法務・検察関係者は「来日外国人の増加は経済面でメリットがある半面、治安面でデメリットの懸念を伴う」と指摘。都道府県警や海保の国際捜査官、厚生労働省の麻薬取締官(マトリ)に加え、出入国在留管理庁や税関との連携促進が急務となっているとする。
同関係者は「いつまでも〝島国〟感覚でいるわけにはいかない。デメリットを克服するには万全の体制を整えることが重要だ」と強調している。(大島真生)
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