初の女性トップ就任、女性比率も過去最高に 「男社会」の検察は変わったのか
産経ニュース / 2024年11月30日 11時0分
検察トップの検事総長に女性が初めて就任するなど、今年は検察で働く女性に改めて注目が集まった年でもあった。検事全体に占める女性の比率は過去最高となり、女性検事が主役のドラマも好評を博した。長らく「男社会」だった法務・検察内部では女性の労働環境改善に向けた意識も高まりつつあるが、かつての感覚が抜けきらない面も。いまだ課題は山積している。
「第1号」から75年
初の女性検事総長となったのは、7月に就任した畝本直美氏。「女性検事第1号」の門上千恵子さんが昭和24年に東京地検検事に任官してから、実に75年を経ての出来事だった。
今年9月に公表された男女共同参画白書では、令和5年の女性検事の割合は27・2%で、過去最高になった。
平成元年には2・9%だった女性検事の割合は右肩上がりで高まり、令和3年は26・0%に。だが4年は25・8%と、初めて減少に転じていた。
「微減とはいえ、時代に逆行した結果だった」。法務・検察関係者は率直に述べた上で、検事の4人に1人が女性となった現状について「30年前は20人に1人だったことを思えば、上昇傾向に戻した事実は大きい」と語る。
ドラマでも注目
女性検事に対する注目が高まったのは、現実の世界だけではない。
今年4月にテレビ朝日系列で放送が始まった「Destiny(デスティニー)」は、主役の石原さとみさんが演じる女性検事が主人公のサスペンスドラマだった。父親を検事に持つ若手女性検事がひょんなことから過去の汚職事件の裏側に迫っていくことになる過程をラブストーリーを交えながら描き、全9話で完結。ビデオリサーチによると、総合視聴率は今春のドラマで5位の8・8%を記録した。
これまで地上波テレビのリーガルドラマといえば、弁護士を主人公にしたものが圧倒的に多い。検事が主役のものでは、平成13年に第1シリーズが放映され大ヒットした木村拓哉さん主演の「HERO(ヒーロー)」がまず思い浮かぶ。
ただ、Desitinyに先立ち30年に放送された吉高由里子さんが主役の「正義のセ」も女性検事が主人公で、好評を博したように、近年は女性検事が主役のドラマも目立つ。
ある検事出身の弁護士は「弁護士を扱った方が脚本は書きやすいし、一般的に検察と警察は同じようなものだと思っている方が多いはず」と分析。「あえてドラマで女性の検事を取り上げるのは、それだけ世の中の注目や期待感が強まっているということではないか」と推測する。
厳しい労働環境
一方、現実の検察は、まだまだ男性中心という「くびき」から逃れられているとはいいがたい。
難関の司法試験合格者からなる法曹3者の中でも、検事や裁判官は転勤や残業が少なくなく、労働環境は厳しくなりがちだ。特に労働条件は、場合によっては一般の女性会社員以上に厳しいとされる。
検事出身の弁護士は「仮に職場結婚で夫婦ともに検事となると、産休・育休などでかなりの困難を伴うのは事実だ」と打ち明ける。
男性検事も子供の誕生直後の8週間以内に最大4週間の出生時育児休業などが取得できるようになっているが、取得率や期間は「十分とは言えない」(法務・検察関係者)。
法務省も、保育所確保のため人事異動の内示を早める▽勤務先周辺の保育所情報の提供▽育休中の職務に関する情報提供-など、子育て中の検事を支援する施策を進めているが、対策は道半ばだ。
「課題が顕在化」
だが、最大の問題は、組織に巣くう「ゆがみ」かもしれない。
「女性として妻として母としての私の尊厳、そして検事として尊厳を踏みにじられ、身も心もボロボロにされた」
今年10月、部下だった女性検事に性的暴行を加えたとして準強制性交罪に問われた元大阪地検検事正、北川健太郎被告の初公判。閉廷後の記者会見で、被害者の女性検事は悲痛な胸の内を涙ながらに語った。
法務・検察関係者は「一部の検察幹部は、時代の潮流とは裏腹に『男社会』だった頃の感覚が抜けきれないまま。事件は、女性検事が働きやすいとは到底言い難い環境にあることを明らかにした」とみる。
女性検事にスポットライトが当たった今年は、「女性を取り巻く検察内部の課題が顕在化した年でもあった」(法務・検察幹部)といえそうだ。(大島真生)
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