東京、大阪に続く第3の特捜部「名古屋特捜」くすぶる不要論 法曹志望者減少で再燃も
産経ニュース / 2024年11月14日 8時0分
地方検察庁特別捜査部-。数々の政財界事件を手掛けてきた通称「特捜部」は、東京地検や大阪地検だけでなく、名古屋地検にもある。国会議員の摘発といった耳目を引く事件を手掛けていない「第3の特捜部」は、一部で不要論がくすぶってきた。人手不足を背景にさまざまな業界で「人的資源の再配分」が叫ばれる中、検察庁でも組織の合理化を求める声が上がっており、不要論が再燃する恐れもある。
滑り出しは上々も
特捜部は終戦直後の昭和22年、東京地検に置かれた旧軍需物資の隠匿を取り締まる隠退蔵事件捜査部が前身。24年に「特別捜査部」の名称で再出した。検察関係者の間では「特捜」「マルトク」などと呼ばれる。
現在は3地検に設置されており、大阪地検には32年に置かれ、名古屋地検では平成8年に創設されている。
名古屋に3番目の特捜部が置かれたのは、冷戦終結に伴い、極左暴力集団などによる公安事件が減少したことが背景にある。検察庁は8年、全国13地検にあり、警察が扱う公安事件を担当してきた公安部を東京、大阪、名古屋を除いて特別刑事部に改変。同時に、名古屋地検に特別捜査部を新設した。
名古屋特捜の発足に際し、法務省刑事局総務課は「政官財界が絡む事件捜査の体制を充実強化する」と説明。発足の年には、愛知県豊橋市の競輪場工事で建設会社に便宜を図っていた元市長が県警捜査2課に収賄容疑で逮捕された事件を巡り、建設会社側から請託(依頼)があった事実を名古屋特捜が突き止め、より罪の重い受託収賄罪で起訴するなど、上々の滑り出しを見せた。
中心は地方政界
「特捜の使命は、汚職を中心に政界の犯罪を摘発することだと言っていい」。ある検察OBは、こう強調する。
近年、中央政界に切り込む大型事件を主に手掛けているのは、過去にはロッキード事件やリクルート事件を手掛け「最強の捜査機関」の異名を持つ東京地検特捜部だ。
過去5年で起訴された元職を含む国会議員14人は、すべて東京特捜が捜査。令和2年にカジノを含む統合型リゾート施設(IR)をめぐる汚職で現職議員を起訴したのを皮切りに、今年1月には自民党派閥パーティー不記載事件で現職議員3人を起訴・略式起訴したのも記憶に新しい。
過去にさかのぼれば、大阪地検特捜部も国会議員を立件している。
平成17年には、弁護士資格の名義貸しをして収益を受け取ったとして弁護士法違反と組織犯罪処罰法違反の罪で現職議員を起訴。昭和63年には、砂利船業界に有利な国会答弁と引き換えに現金を受け取った参院議員を辞職直後に在宅起訴している。
政界絡みではないが、平成2年に発覚し「戦後最大の経済事件」といわれたイトマン事件を捜査したのも、大阪特捜だった。
一方、名古屋特捜が捜査対象としてきたのは、地元の地方政界が中心。捜査に絡みしばしば不祥事が取り沙汰される東京や大阪と違い目立った「失点」こそないが、存在意義は示せていない。
現職の警察官僚は、名古屋特捜の捜査について「地元警察と競合するようなものばかりで非効率的な状況だ」とした上で「地検には警察を指揮し、起訴するかどうか判断する仕事がある。すみ分けを徹底すべきではないか」と提案する。
効率化は急務
«名古屋地検特捜部を廃止して東京地検および大阪地検の特捜部に集約すべきとの意見もあった»
大阪地検特捜部の証拠改竄(かいざん)事件を機に開かれた「検察の在り方検討会議」は平成23年3月、検察改革の指針を定めた提言書で、検察内部で長年くすぶっていた名古屋特捜不要論を、正面から取り上げた。
検察改革に関与した法務省関係者も「政界の浄化という国民の期待に応えるには、特捜を最高検に集約するか、東京地検に一本化した方がいいとの意見は改革議論の中でもあった」と振り返る。
法務省によると、今年の司法試験の受験者数は3779人と、過去10年で半減。将来の法曹界志望者、ひいては検事の志望者も減少が見込まれる中、検察庁でも先を見据えた人材再配置が課題となっている。
同様の課題を抱える警察庁では昨年、「警察組織全体から捻出した人的リソースを重点的に投入する」として、警察署内の部門間や複数の警察署間の人員の統合を進めることを決めた。ある警察官僚は「捜査現場こそ人材の再配置による効率化が急務だ」と話す。
法務省関係者は「特捜部の統廃合案はあくまで一例に過ぎない」と断った上で、「弁護士業界でも人工知能(AI)を一部で導入するなど、法曹界も人材不足を補うために時代の変化に追いつこうと必死。人員が潤沢とはいえず事件処理に追われている検察庁でも、人材の重点的な再配分が課題だ」としている。(大島真生)
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