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「無宗教ダメ」「寺で葬儀」…霊園開発めぐり条件続々 住職殺害男が募らせた憎悪 法廷から

産経ニュース / 2025年1月6日 8時0分

東京都内の寺の地下納骨堂に仕掛けた練炭に着火し、一酸化炭素(CO)中毒で男性住職を殺害するなどしたとして、殺人罪などに問われた墓石販売会社代表の男に昨年11月、東京地裁が懲役25年の判決(求刑同30年)を言い渡した。死者を弔うための場所で、なぜ衝撃的な事件は起きたのか。男は、霊園事業を巡って寺と他の業者との板挟みとなり、住職への憎悪を募らせた末に最悪の選択をした経緯を語った。

石材業界30年のベテラン

「明るくきれいで『これがお墓か』という、公園のようなものを作れればと、理想にかぶれていました」

法廷で霊園作りへの思いをこう語ったのは、墓石販売会社「鵠祥堂(こくしょうどう)」代表、斎藤竜太被告(51)。石材業界に約30年間にわたって身を置き、ステンドグラスを取り入れた墓などを手掛けてきた。

その斎藤被告が問われた罪は、殺人だ。

令和5年7月22日夜、同社役員の女(64)=同罪などで起訴=と共謀し、地下納骨堂内に仕掛けた練炭28個に着火。翌朝、納骨堂に入った住職=当時(70)=をCO中毒による低酸素脳症などで死亡させるなどしたとして起訴された。倒れた住職を助けようと納骨堂に入り、CO中毒になった住職の妻と娘への殺人未遂罪にも問われた。

「檀家縛りなし」のはずが

昨年11月18日の初公判で「(住職が)死んでしまっても仕方ないと思っていた」と、起訴内容を認めた被告。法廷では、霊園事業を巡って住職と数々の「トラブル」があったと明かした。

取引先から「土地を有効活用したいというお寺がある」と住職を紹介されたのは、元年の年末ごろ。顔合わせで住職は「檀家(だんか)墓地は(販売が)難しい。これからは『無党派層』を集めないと」と話したという。

住職が言う「無党派層」は、「無宗教の人」のことだと理解したという被告。檀家になることを墓地の購入条件とする「檀家縛り」をしない▽無宗教の人も受け入れる▽寄付や法要を強要しない▽埋葬のみの人も受け付ける-を条件に、霊園事業を手掛けることを了承した。

その後、鵠祥堂が中心となって販売協力会社の石材業者5社、寺の間で契約を締結した。ところが、被告にとって予想外の事態が続いた。

住職は「墓地が売れても売れなくても15年で全社撤退する」などの条件を追加するよう要請。2年9月の霊園オープン直前には、霊園の名称変更を求めてきたという。

住職に土下座で「嫌がらせ」決意

極めつけは、購入条件を巡る対立だった。

被告によれば、住職はオープンの数カ月後には「無宗教の人は受け付けない」と告げ、「戒名をつけること」「寺で葬儀をあげること」といった条件も出したという。

住職の意向で管理費を値上げしたこともあり、墓地の販売は伸び悩んだ。顧客からのクレーム対応に追われ、他の石材業者からは「ちゃんと住職をグリップしてほしい」と苦言を呈されたという。

「最初の話と違う」と住職にかけあっても、状況は改善しなかった。度重なる住職の要求に「各石材業者はやる気をなくしていった」(被告)。営業から撤退する業者も出た。

そして、決定的な出来事が起こる。

5年7月9日、納骨に必要な「墓地使用承諾書」の即時発行に応じられないとする住職に、被告が土下座。弁護側はこのとき、被告が「住職に嫌がらせをして、恨まれていることをわからせたい」と考えた、と主張している。

判決は「理解できないわけではない」としつつも…

その後、「硫化水素自殺」「練炭」などに関するウェブサイトを閲覧し、練炭やガソリンを購入した被告。納骨が予定されていた前日の同月22日夜に、役員の女とともに納骨堂に練炭を設置。すべてに着火して現場を離れた。翌朝、納骨堂に入った住職はCO中毒となり、亡くなった。

地裁判決は「住職に対する強い殺意が認められる」と指摘。「他の関係者が入らないようにする措置も講じていない」とし、1人を殺害、2人にけがをさせた結果は重大だとした。

霊園事業を巡るいきさつについては「住職に対して不満を募らせたことは、全く理解することができないというわけではない」としつつ、「殺害に及ぶ理由として酌むことはできない」と退けた。

検察、弁護側はいずれも控訴せず、判決は確定した。(滝口亜希)

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