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「家族」「社長」鉄の結束、細かい役割分担 捜査3課vs「韓国人武装すり団」の戦い㊦ 警視庁150年

産経ニュース / 2024年12月31日 8時0分

武装すり集団事件が起きた東急東横線田園調布駅構内を調べる捜査員=平成16年6月

平成初期から中期にかけて、日本国内で窃盗を繰り返した「韓国人武装すり団」。その犯行を支えたのは、緻密な組織と鉄の結束だった。

「シック」(家族)と称する実行メンバーを「サジャン」(社長)と呼ばれる統括役がまとめ、犯行のたびに来日。目標額を盗み取ったらすぐさま帰国して摘発を逃れる「ヒットアンドアウェー」の手口で犯行を重ねた。

メンバーは地縁で結びついていた。すり団は平成19年時点で「ソウルグループ」と「釜山グループ」に分かれていた。警視庁が当時把握していた中でもソウルグループが約40人と大きく、釜山グループは十数人だったという。

これらのグループには、メンバーの斡旋(あっせん)や、警察の取り締まり情報をサジャンに共有したり、対立グループを警察に密告し摘発させようとしたりする「ヤダン」(野党)と呼ばれる存在も見え隠れした。

両グループによる日本での被害は計1566件。被害総額は財布などを含めると、実に約1億300万円にのぼった。

家族を盾に脅迫

捜査は容易ではなかった。原因の一つが分業だ。グループは「機械」(実行役)、「幕」(目隠し役)、「アンテナ」(見張り役)、「経理」(抜き取った財布の回収役)などに分かれており、数人単位で行動していた。

「周りに人がいるから、既遂の瞬間をとらえるのが難しい。実行役の手をつかんでも、すぐ横の回収役に財布を回されたら被害品が確認できない」。捜査関係者は捜査の難しさを解説する。

すり団は得た金の一部をプールし、逮捕されたメンバーの弁護士費用や家族への支援に充てた。一方でそれは「供述すれば家族へ危害を加える」という脅しの裏返しでもある。取り調べも難航した。

日韓警察がタッグ

警察当局の危機感は強かった。警視庁捜査3課すり班の捜査員は、積極的な職務質問を実施。刃物を振り回すすり師たちを次々と公務執行妨害容疑などで摘発した。グループの全容解明にも挑み、粘り強い取り調べで18年には釜山グループのトップであるサジャンを逮捕するに至った。

加えて捜査を後押ししたのが、時間や手間を省くため、国際刑事警察機構(ICPO)を通さず日韓の警察当局の間で進められた連携だった。

16年ごろには捜査の協力体制について合意が固まっていたとされる。防犯カメラ画像や指名手配情報、すり師の渡航情報などを共有するほか、日本国内で逮捕状が出された容疑者の行動確認を韓国警察が行うなどの方針も決まっていたという。

14年に発効された日韓犯罪人引渡条約もあいまって、連携は結実する。19年には大阪府警・警視庁などの共同捜査本部が追っていた男が、条約に基づいて韓国から引き渡された。男は日本で逮捕状が出され、韓国警察が身柄を拘束していた。19年を境にすり団の犯行は急減。以来、散発的なものを除き、目立った被害はなくなった。

「『韓国へ帰っても逃げ場はない』と知らしめることができた」。警察幹部は、捜査員らの苦闘をこう振り返った。(内田優作)

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