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「介護が始まる前に…」家事をしてこなかった87歳夫は、81歳妻を手にかけた 法廷から

産経ニュース / 2024年10月10日 8時0分

老老介護が始まることを恐れた夫は、その不安を鎮めようと、妻の首を締め続けた-。58年間連れ添った妻を殺害したとして殺人罪に問われた87歳の男に対し、懲役8年の実刑判決が東京地裁で言い渡された。妻の命を奪うほどに思い詰めたきっかけは、家事のできない不安と、「最後の昼食」だったという。

「米も炊いたことない」

「介護をする前に殺そうと思ったのか」「丸く言えば、そうですね」

9月、東京地裁で開かれた殺人事件の被告人質問。検察官の質問に対し、吉田春男被告(87)は、淡々と応じた。

被告は令和5年12月14日、東京都練馬区の自宅で妻=当時(81)=の首を絞めて殺害したとして、殺人罪で起訴された。

足を悪くするなど体が不自由になり始めていたが、妻は介護認定を受けていなかった。「私は家事はできない。(将来的に)介護を要求されても、できないと思う」。被告人質問で、被告はこうも語った。

検察側や弁護側が公判で示した証拠などによると、被告と妻は昭和40年に結婚し、2男1女に恵まれた。長女は結婚して家を出たが、長男と次男は被告夫妻と同居するようになった。

「男子厨房(ちゅうぼう)に入らず」を地で行く亭主関白だった被告は、「米を炊いたこともない」。2人の息子も、家事はほとんどしない。それでも不自由がなかったのは、妻がいたからこそだった。

口論が増え始め

だが、そんな生活に数年前から異変が生じていた。足を悪くした妻は杖を突き始め、令和4年11月には通院途中に転倒。外出の機会もめっきり減り、買い物は被告が担うようになった。

生活のリズムが崩れた影響か、妻は耳も遠くなり、夜中まで居間のテレビを大音量で見るように。事件の数カ月前にはテレビの音量を巡って2~3日に1回は夫婦で口論するようになっていた。

「自宅を売って(夫婦で)老人ホームに入りたい」。事件の1カ月ほど前、被告は長男にこう打ち明けたが、長男からは「すぐにはできない」と返された。妻を在宅介護する未来が、現実味を帯び始めていた。

「途中でやめたら後遺症が…」

検察側の冒頭陳述などによると、5年12月14日午後1時ごろ、既に昼食を済ませた被告は、妻に早く昼食をとるように促した。ただ、妻は食べるそぶりを見せず、これがきっかけで口論となった。

口論の詳しいやり取りについて、法廷で「覚えていない」と語った被告だったが、「介護のことが念頭にあった」として殺害を決意。その場から離れようとする妻を追いかけて廊下で倒し、首を絞めた。

手を緩めることも頭をよぎったが、「途中でやめたら、言語障害が残るかもしれない」(被告)。反応がなくなるまで絞め続けた。その後、3人の子供に次々に電話し、犯行を告白。子供らに促され、犯行の1時間後にようやく119番通報したが、妻の窒息死が確認された。

「後悔の念感じられず」

「かわいそうなことをした」。法廷で妻への思いを語った被告だったが、検察側は懲役12年を求刑。9月20日の判決公判で言い渡されたのは、懲役8年の実刑判決だった。

野村賢裁判長は量刑理由の中で「被害者の無念に思いを致したり、殺害に及んだことに後悔の念を抱いているようには見受けられない」と突き放した。

高齢化に伴い、介護を理由にした殺人事件は全国で相次いでいる。日本福祉大の湯原悦子教授の調査では、いわゆる「介護疲れ」を理由に親族が60歳以上の男女を殺害した事件の記事は全国38紙で平成8年~令和3年の26年間に計1025件あったという。

今回の事件で被告は、警察に逮捕された際に「介護に疲れた」と供述。だが法廷では、将来的に始まるであろう妻の介護を悲観し、犯行に及んだと明かした。

家事も不要な代わりに、自由を奪われる刑務所で暮らすことになる被告。未決勾留期間を差し引いても、満期で出所した場合、94歳となる。(橘川玲奈)

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