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安倍元首相「ヤジ排除」判決確定、憂慮される「表現の自由」の拡大解釈

産経ニュース / 2024年9月4日 8時0分

演説中の安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばした女性を排除した警察の対応は、表現の自由の侵害にあたる-。札幌高裁が出したこんな判決が8月、最高裁で確定した。判決を巡っては、選挙で他候補の演説を妨害したとして起訴された政治団体の候補者らが、自らの行為を正当化するのに援用してきたが、専門家は「判決への誤解に基づくものだ」と指摘する。

「同じだ」主張

「候補者以外の安倍(晋三氏)へのヤジが合法な時点で、候補者である俺らが違法なわけがない」「北海道のヤジも、俺らがやったヤジも全く同じ」

今年4月の衆院東京15区補選で他候補の演説を妨害したとして公選法違反(選挙の自由妨害)容疑で逮捕された政治団体「つばさの党」の根本良輔被告(30)=同法違反罪で起訴=は、逮捕前に自身のX(旧ツイッター)にこんな投稿をしていた。

根本被告が引き合いに出したのは、令和元年参院選で演説中の安倍氏に対し「安倍辞めろ」「帰れ」などと大声でヤジを飛ばした市民の男女2人による訴訟だ。

現場は札幌市内。北海道警の警察官に後方へ移動させられた2人は「表現の自由を侵害された」として、道に損害賠償を求めて提訴した。

札幌地裁は4年3月、2人への賠償を道に命じた。5年6月の高裁判決は、男性の主張は退けたたものの、女性に対する賠償を認める判断を示した。

選挙妨害に当たるかは判断せず

今年8月、最高裁が上告を受理しなかったことで、高裁判決は確定した。

ただ、選挙犯罪に詳しい元検事の高井康行弁護士は「判決は、表現の自由が『選挙活動の自由に優先する』とは一言も言っていない」とし、つばさの党らの解釈は札幌判決に対する誤解があるとする。

つばさの党の事件では、ヤジの内容や手法などが問題となった。だが札幌の訴訟では、公選法における「選挙の自由妨害」は争点になっておらず、道警が原告の2人を演説会場から排除した行為が、憲法が保障する表現の自由を侵害しているかどうかが争われた。

道側は訴訟の中で、ヤジを放置すれば聴衆に「危険が及ぶ恐れがあった」と職務執行が適切だったとは訴えたが、2人のヤジ自体が「選挙妨害にあたる」との主張はしていない。

確定した2審判決は、排除が許されるほど聴衆に危険が迫るような状況ではなかったとして、2人のうち女性のみについて、表現の自由が侵害されたと認定。2人の行為が選挙の自由妨害に当たるかどうかは、判断していない。

過去の判例は

高井氏は「札幌の判決をきっかけに、選挙戦での『表現の自由』が拡大解釈されているように感じる」と憂慮する。

では、選挙の妨害行為にはどんな「線引き」があり得るのか。過去の判例では、具体的にどのようなヤジが、公選法上の選挙妨害にあたるかが示されている。

たとえば、昭和23年の最高裁判例では「聴衆が演説を聴き取ることを不可能または困難にする行為」が選挙の自由妨害にあたると判示されている。一方で、「演説の遂行に支障をきたさない程度に多少のヤジを飛ばし質問をなす等は許容されるべき」との判例もある。

今年7月の東京都知事選で候補者と関係のないポスターが大量に貼られるなどの問題が起きるなど、ヤジに限らず選挙を巡る騒動は後を絶たない。甲南大学の園田寿名誉教授(刑法)は「選挙妨害は民主主義に対する大きな挑戦。放置してはならない」としている。(久原昂也)

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