40代で若年性認知症に、生活一変「仕事続けたい」 交流+労働で居場所づくりも
産経ニュース / 2024年9月21日 12時10分
今年施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」に基づき、21日は認知症への理解を深めようと定められた「認知症の日」。認知症の中でも、65歳未満で発症する「若年性認知症」は、発症が若ければ若いほど経済的打撃が大きく、患者同士の交流機会が乏しいため社会から孤立しやすいという。離職や離婚で生活が一変する人も少なくない。「仕事を続けたい」という当事者の思いをくみ、働くことができる居場所づくりを模索する動きも少しずつ出てきている。
受け入れ施設なく…
大阪府の40代男性は47歳で認知症と診断された。教育機関で教鞭(きょうべん)をとっていたが、授業中に教室を出てしまったり、使い慣れたパソコンの操作を忘れたりするなどし、異変に気付いた周囲に受診を勧められた。
休職するしかなく、妻には離婚を告げられた。小学生の2人の子供とは1年以上会えていない。病気発覚の前年にローンを組み購入したマイホームを手放し、男性は実家へ戻った。
男性の妹(46)によると、現在は70代の両親が男性を支えるが、「献身的に世話をしている父だが、現実を受け止めきれず、つらく当たることもある。母も仕事と兄の世話で疲れ切っている」。
男性の運動不足解消と両親の負担軽減のため、通所施設を探したが、若年性認知症患者の受け入れ実績がある施設に巡り会えず、今は高齢の利用者がリハビリを行うデイケア施設に通う。妹は「将来高齢の両親と兄のトリプル介護も待ち受けている。自分も仕事をしながら両立できるのか…」と不安をのぞかせる。
男性は言葉に詰まったりする一方、在職中の話になると仕事でよく使った英語を流暢(りゅうちょう)に話せたりもする。「学生への講義は本当に楽しくてやりがいがあった。また教壇に立ちたい」と願う。
子供の養育費や妻への財産分与もしなければならず、金銭的な心配も募る。妹は「同じ仕事は無理でも、兄が得意なことを生かして働ける居場所がほしい」という。
働き盛りで失職73%
一般的に高齢者に多い認知症だが、65歳未満で発症すると若年性認知症といわれる。厚生労働省によると、患者は全国に3万5700人いると推計され、18~64歳の10万人あたり50・9人とされる。
東京都健康長寿医療センターが平成29~令和2年に行った調査では、若年性認知症の人が症状に気づいた平均年齢は54・4歳。発症時、仕事に就いていた人のうち、退職した人は67・1%、休職中が5・3%、解雇された人は6・2%だった。
働き盛りでの発症で仕事を続けたい当事者は多いが、周囲の理解を得て仕事を続けることが難しい実態が調査結果からうかがえる。当事者が少ないため、同じ病気を持つ者同士で交流できずに社会から孤立する人もいる。
民間企業と連携開設
そこで当事者の思いをくみ、動き出した自治体もある。京都府は昨秋、クリーニング業などを手掛ける「アグティ」との協働で、若年性認知症患者が働ける「OTOKUNI シゴトバ」(向日市)を開設した。月に2度当事者が集まって交流し、クリーニング済みの衣類をたたむ仕事で報酬が得られる。
開設から携わる府こころのケアセンター(宇治市)の若年性認知症支援コーディネーター、木村葉子さんによると、開設から1年で延べ約100人が参加。介護事業者が若年性認知症当事者の働く場を設ける事例はあるが、民間企業と連携した取り組みは全国的にも珍しいという。
ただ、遠方から1人で通うのが難しく、参加を諦めた人もいるといい、木村さんは「働く場を各地に増やしていきたいが、若年性認知症への理解がまだ十分ではない。協力企業探しが課題だ」と話している。(木ノ下めぐみ、写真も)
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