「チリン」と夏の音色で涼呼ぶラムネ 〝エー玉〟跳ねるオールガラス瓶 彩時記~7月・文月
産経ニュース / 2024年7月5日 8時0分
東京の古きよき下町の風情を残す葛飾区柴又。映画「男はつらいよ」の主人公、寅さんの生まれ故郷で知られる。柴又帝釈天の参道にある茶屋「高木屋老舗(ろうほ)」ではこの時季、名物「草だんご」のお供は冷たいラムネが定番だ。
今では珍しい、ガラス製の「オールガラス瓶」がレトロな雰囲気を醸す「柴又ラムネ」。冷えた瓶の口に玉押しの突起を当て、手で押すと、ビー玉が落ちて勢いよく泡がはじけた。飲み口までひんやりとして限界まで冷たい。すっきりした甘みと爽快な喉ごし。懐かしい清涼感に、体にこもった熱がすーっと引いていく。
「ここは寅さんの町。いつ帰ってきても寅さんが迷わないように、町並みも人情もなるべく変えないようにしています。昔ながらのラムネは、その大事なキャラクターの一つです」
同店の6代目店主、石川宏太さん(71)は、穏やかな口調でそう語った。
瓶にある2つの丸いくぼみの間に、ビー玉をひっかけながら飲むのがコツ。飲み干すとビー玉が跳ねて、「チリン」と澄んだ音色が響いた。
柴又ラムネは先の東京五輪の前年、昭和38年から地元の路地裏にある小さな工場でつくり続けられている。大越飲料商会の社長、大越恒男さん(88)は、「この音がいいんだよね。風鈴と同じように。夏場は配合を変えて酸味を強くし、よりさっぱりとした味わいにしているんですよ」。
ビー玉には王冠やコルクと同じ、栓の役割がある。ラムネの製造ラインでは、ビー玉が沈んだ状態でシロップを入れ、炭酸水を注いだら瓶を逆さまに。ビー玉が炭酸ガスの圧力で口ゴムに押し付けられ、栓となる。
「本当はラムネ瓶のはビー玉じゃない」と大越さん。なぞかけに聞こえ、首をかしげると、こう続けた。「玉にゆがみや傷があったら炭酸ガスが抜けてしまう。だから、ラムネ瓶用に作られたガラス玉は真球に近いエー(A)玉。子供たちが遊んでいるのがビー(B)玉なの」
製造・回収に手間もコストもかかるオールガラス瓶は、国内での生産が30年以上も前に終了。柴又ラムネも、今では飲み口がプラスチック製のものが主流で、オールガラス瓶のラムネは、瓶の回収が可能な地元の得意先にだけ卸す。現役で残る約600本の瓶にも、〝寿命〟が近づいている。
「人気は根強くてね。回収すれば再利用できるからエコで、今の時代には合っているんだけれど…」
大人のための「絵本のような」高岡ラムネ
天保9(1838)年創業の老舗菓子店、大野屋(富山県高岡市)の「高岡ラムネ」は、〝大人のためのラムネ菓子〟で知られる。
富山産コシヒカリの米粉を使用し、落雁(らくがん)のように木型に詰めて形作る。9代目店主の長女、大野悠さんは「店には、古くから時代を映したり、和の美を表したりする800種類以上の木型が保管されていました。ラムネなら老若男女、幅広く楽しんでいただけると考えました」。
夏の風物詩をちりばめた「夏けしき」は、ラムネの爽やかさに、同県氷見市特産「稲積梅」の風味が重なる。ほろりと溶ける繊細な口当たりは、職人の手仕事ならでは。朝顔、金魚、枝豆など一粒一粒が物語を紡ぎ出し、「『絵本のようなお菓子』といわれるのがうれしいです」。販売は8月末までを予定。1袋(10個)594円。 (榊聡美)
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