2人同意すれば黄泉の世界へ扉開く医師 年間1万5千件以上安楽死 裁量に偏りはないのか 安楽死「拡大の国」カナダ(2)
産経ニュース / 2025年2月3日 8時0分
カナダで安楽死を認める「死への医療的援助法(MAiD)」が成立した2016年、任意団体「CAMAP(ケイマップ)(MAiD評価者および提供者協会)」が設立された。医療従事者やソーシャルワーカー、倫理学者ら約1600人が登録。法にのっとった安楽死を担保するため、さまざまな事例を検証、検討している。
「家族が実施を反対したこのケースでは、どうアプローチしたのか」
「この患者は、進行性の病気ではない。認めるべきか否か」
CAMAPでは毎月1回、オンラインでセミナーを開催。昨年12月3日のセミナーには約40人が参加し、実例などをもとに活発な議論を交わした。「CAMAPはいわば実務者の教育機関のような役割を担っている」。会長で医師のコーニャ・トラウトン(59)が説明する
医療機関の中には、患者の真意をくみ取るため福祉の専門家やカウンセラーらの専門チームを置くところもある。人柄、病気になる前の生活、なぜ死を望むのか-。家族も交えて深く見つめ、不同意も視野に最良の選択肢を探す。
「安楽死に同意するには、プロフェッショナルが最善を尽くしたと確信できることが必要だ」。専門チームを置く病院の医師、アンドレア・フロリックは、同意の前提として、真意に寄り添うことの重要性を強調する。
法改正で「死期が予見できる」要件を撤廃
カナダの安楽死は、21年の法改正で余命宣告の要件が撤廃されたが、適用対象はあくまで「重篤で回復の見込みがなく、耐え難い苦痛がある」患者に限られる。安楽死は医療行為の一環であり、自殺の手段であってはならない。
実施の可否は、患者が主治医に意志を示し、主治医と第三者の医師が同意して初めて認められる2段構えの仕組みだ。ただ、最終的には医療従事者の裁量のみに委ねる制度ともいえ、実質上、医師の解釈が対象を広げたケースもある。
例えば認知症患者に対する判断。法制定当初、認知症は意志確認が困難で安楽死の対象にはならないとの見方が支配的だったが、17年、70代女性に対する事例では、主治医との長年の信頼関係で女性の意志は明確だと判定され、安楽死を実施。調査した州医師会も法律違反には当たらないとした。以降、カナダでは認知症を患う人も安楽死の適用対象となっている。
トラウトンは、認知症患者に対しては数週間かけて何度も面談を重ね、可否を判断するようにしている。「安楽死は個々の事例で慎重、適切に判断されている。医師の裁量が大きすぎるとは思わない」と話す。
年間30件以上実施の医師も
カナダ保健省の年次報告書によると、同国では23年、1万9660件の安楽死申請に対し、実施されたのは1万5343件。申請全体の22%は行われなかったが、そのほとんどは「実施前に死亡」「取り下げ」が理由で、要件を満たしていないと医師が却下したのは915件、4・7%にとどまる。
一方、報告書は、同年安楽死を行った医師ら2200人のうち、89(4%)が年間31件以上実施したと指摘。「安楽死は一部の医療従事者の専門分野になりつつある」と偏りに懸念を示している。
国民の要請に応じて、適用数や範囲が拡大してきたカナダの安楽死。メモリアル大教授の生命倫理学者、ダリル・プルマン(70)は、終末期患者に対する安楽死に賛成の立場だが、制度の立て付けには疑問を呈する。
「州によって公的な審査の手だてがないところもあり、安楽死の要件が、一部の医師によって自由に解釈されてしまう恐れがある。全ての州に独立した審査機関が必要ではないか」
=敬称略(小川恵理子 池田祥子)
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