「光る君へ」乙丸役人気 漫画に演技「異物感がいい」 矢部太郎さんインタビュー（下）

芸人、漫画家、俳優と幅広く活躍する矢部太郎さん(酒井真大撮影)

漫画家としても活躍するお笑い芸人の矢部太郎さん。今年は、３年ぶりとなるコミックエッセー『プレゼントでできている』（新潮社）を刊行。初の大規模展覧会も開催中で、ＮＨＫの大河ドラマ「光る君へ」にも出演する。表現者としてさまざまなジャンルで活躍するが、「自分の居場所がいくつかあると楽なんです」と語る。

「まだない漫画を」

絵本作家のやべみつのりさんを父親に持ち、子供のころから絵を描くのが好きだった。高校の同級生である入江慎也さんとお笑いコンビ「カラテカ」を結成。小柄な体格とやさしい雰囲気をいかし、バラエティー番組で活躍してきた。

借家の１階に住む大家さんとの交流を描いた『大家さんと僕』で漫画家デビュー。『ぼくのお父さん』では、幼いころ父親と過ごした日々をつづった。現在、漫画誌では「楽屋のトナくん」を連載し、精力的に作品を発表し続けている。

「読むのが好きなので、自分が読みたい漫画、まだない漫画を描けたらいいなと思っています」と語る。新刊の「プレゼントでできている」は、プレゼントをテーマにしたが、「エッセー漫画でテーマがある連作はあまり見たことがない気がしたんです」と明かす。

日常をやわらかなまなざしで切り取りつつ、人間関係の本質を突いた考察が印象的だ。余白や間の使いかたからは芸人として培った観察眼やユーモアを感じる。

「鉄道での旅や、紀行ものも描いてみたいですね。入江君と会う度に、『俺たちの高校時代の話を描いてよ』って言われます。いつかは描きたいと思いますけれどね」と笑う。

「従者役なら大丈夫」

放送中のＮＨＫ大河ドラマ「光る君へ」にも、主人公・まひろ（後の紫式部、吉高由里子）の従者、乙丸役として出演。姫君らしくないまひろに振り回される姿も人気だ。「平安の貴族の役かなと思ったら、従者の役だったんで、僕でも大丈夫かもしれないって思いました」と話す。

まひろの父親・為時は無官の時期が続いた。一家の暮らしが厳しい時も、乙丸は仕え続けた。「（為時の屋敷で）他にも働いてた人いたちはやめちゃっても、乙丸は残っていました。忠義の心がある人」と話す。

大河の撮影現場は、漫画家の目で見ても刺激を受ける。「寄りだけじゃなくて、引きでも絵を撮っているし、いろいろな画角があるんです」

ドラマの中で印象に残った場面を絵にする「大河絵」も毎週ＳＮＳで公開し、好評だ。

平安貴族がまとう色鮮やかな衣装にも感銘を受けた。「現代の日本だと男性はみんなスーツですが、水色や模様のある衣装を着ている。女性も着物を重ねていて、色をチラッと見せている。おしゃれですよね」。

まひろは今後、文学者として源氏物語を執筆していくが、「まひろが源氏物語を書いてそれが今も残っている。ドラマであったことすべてが源氏物語であったのかなって思わせる作りですよね。乙丸も源氏物語の中にいるかもしれない。歴史上の人物だけではなく、いなかった感じになっちゃってるような人たちも、物語が残ってることで、本当にいたんだなって感じることができる」と話す。

矢部さんの漫画は、「誰か」との思い出をもとにしたものが多いが、「漫画にお名前は出てこなくても、直接じゃないけれども、自分が経験したたくさんのものが漫画の中にある。それが読んだ人に伝わったり、つながっていくことがうれしいです」。

居場所をいくつか

俳優として舞台や映画にも出演。29歳の時には、気象予報士の資格を取得した。

地道に勉強することで、道を切り開いてきたが、「母が社会人になってから放送大学を卒業したので、その影響もあるかもしれません。学びなら描くのが好きなので、『プレゼントでできている』も、いろんな本を読みながら、分からないなりに考えるのはすごく楽しかったです」。

４月からは初の大規模展覧会「ふたり　矢部太郎展」が東京・立川で開催されており、画業も順調だ。

活躍の幅を広げていく理由について尋ねると、「自分の居場所がいくつかあるとやっぱり楽。ここがダメだったら、こっち、みたいな。それぞれにお邪魔している感覚がある。雑誌に漫画が掲載されるにしても、ドラマにしても、自分が出ることによる違和感、異物感みたいなものがあると思う。でも、それがいいところじゃないかな」。

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矢部太郎

やべ・たろう　昭和52年生まれ。平成９年に「カラテカ」を結成。舞台やドラマなどでも俳優として活躍。初の漫画作品「大家さんと僕」で、手塚治虫文化賞短編賞。主な著書に『ぼくのお父さん』『楽屋のトナ君』など。