コーヒー牛乳「ミルクの束縛」が異例ヒット ローカルメーカーが目指す酪農の盛り上げ
産経ニュース / 2024年10月13日 13時0分
千葉県の乳業メーカー、古谷乳業(千葉市)のコーヒー牛乳「ミルクの束縛」が異例のヒットを飛ばしている。その75%は生乳で、あとは砂糖とコーヒーだけ。昨年10月に県内で販売開始後、エリアを徐々に拡大し、製造数は140万本を突破。今後は全国展開を目指している。地方の老舗メーカーがヒット商品を生んだ裏には、酪農家を苦境から救いたいという熱意があった。
新鮮なミルク風味
「飲んでいただくと、『ミルクの束縛』という名前の意味が分かると思います」
商品開発に携わった同社の事業開発部長、金谷敏さんに促され、ひと口。甘みが口の中に広がった後、新鮮なミルクの風味を存分に感じることができた。
砂糖は甘いが後味を残さずすっと消え、ミルクの味わいがやってくる。コーヒー風味でありながら、牛乳本来の魅力に「束縛」されるという、名前そのものの味。
「コーヒー豆も、まろやかさを重視して選んでいます。キャラメルのような風味で、懐かしさも感じてもらえると思います」との言葉から、味わいへの自信がのぞく。
苦境の酪農業界
ミルクの束縛の開発の背景には、苦境が続く「酪農業界を盛り上げたい」との思いがあるという。
特に顕著なのが生産コスト増だ。農林水産省の畜産物生産費統計によると、令和4年の乳牛1頭当たりの生産(飼育)費は100万8902円。3年より14・1%増えた。生乳100キロ当たりに換算すると、3年と比べ9・8%のコストアップとなった。
「餌代や光熱費、燃料代や設備の修理代など、あらゆるものが上がっていて厳しい状況」。古谷乳業に生乳を供給する宇畑牧場(同県旭市)の代表、宇畑耕作さんはため息をつく。
もう一つの課題は、少子化などの影響で、牛乳の消費量が減少傾向にあることだ。業界団体のJミルクの資料によると、平成5年度に年間33・4リットルだった1人当たりの消費量は、令和5年度に24・8リットルと、30年で3割近く減っている。
この状況に一矢を報いるため、嗜好(しこう)性が強く、付加価値の高い新たな「ミルクコーヒー」を開発すれば―。令和4年、金谷さんらはそう思い立ち、取り組みを開始した。
名前の由来は
「業界の常識にとらわれず、新しい切り口で提案をしてくれる企業をパートナーに」と商品ブランディングの依頼先に選んだのは、ユニークな広告企画に定評のあったIT企業「カヤック」(神奈川県鎌倉市)だった。
素材は3つ、味わいの決め手は75%を占める生乳。カヤックの担当者は、パッケージで素材のシンプルな味わいをストレートに言葉にして伝えることにした。
パッケージの茶色い面に、「一口目はゆっくり味わってください」「生乳、珈琲、砂糖、以上。」。別の白い面には大きく商品名を。
500ミリリットルで233円。賞味期限は製造日から12日と通常より短い。現在は関東甲信越1都9県と静岡県の一部のファミリーマートで販売。さらに全国販売を目指して準備中という。
束縛の名付け親は、カヤックのコピーライター、合田ピエール陽太郎さん。このプロジェクトで生乳のおいしさを知ってから、「普段の買い物でも、生乳の割合を気にするようになり、いつの間にかミルクにとらわれちゃっていることに気づいた」ことが由来となった。
70歳の宇畑さんは、「われわれ世代にとって懐かしい味で、ミルクの風味もしっかり感じられておいしかった」と語り、「多くの人に生乳のおいしさを楽しんでもらい、全国に広がっていくのは、とてもうれしいし、酪農業界の活力になる」と期待を寄せた。(本江希望)
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