「今年はサド侯爵夫人に挑戦」 生誕100年の三島由紀夫、宮本亜門さんが解く魅力(下)
産経ニュース / 2025年1月22日 12時0分
作家・三島由紀夫が14日に生誕100年を迎えた。「金閣寺」や「ライ王のテラス」の舞台を手がけた宮本亜門さん(67)は今年、三島が生前「一番できがいい作品」と自賛した「サド侯爵夫人」に新たに挑戦する予定だ。敗戦後の日本に警鐘を鳴らし、昭和45年11月に自決した三島の生について、宮本さんが語った。
《宮本さんは三島本人に会ったことはないが、当時を知る人物や著作を通じて、三島の生に触れる試みを続けてきた》
――脚本家として、戯曲を通じ三島に触れる機会が多いと思う
「三島さんが生前かわいがって、多くの舞台で主演を務めた俳優の村松英子さんから何度か話を聞くことができた。三島さんは厳格に育てられた子供の時にできなかったこと、禁じられたことを全部やろうとしていると話していたという。新しい橋がかかれば飛んでいき、高いビルが完成すると一番に登るような」
――堅物な人物イメージとは違う
「本人が生前に書いている文章がある。『私の文学について人々は理解しようとするかもしれないけど、誰も私のことも行動も理解できないだろう』と。『50年、100年たったら誰か理解するかもしれないが』と続けて書いているあたりがさすがなんだけど、死後のことも考えている。シンポジウムに僕も招かれたりするが、参加者個々に解釈がいろいろあって、宗教的な意味ではなく呪縛されているというか、求心力はすごい。作品に関して言えば、読む側にとって自分の考えに近いものを探し出せる。僕はそれが一番濃いのが『金閣寺』だと思っている」
――三島は戦前戦中戦後を生きたという話があった。今年は「昭和100年」でもあるが、その半分を生きたことは三島にどういう影響を与えたか
「勝手な思いだが、三島さんは戦争に行かなかったことはよかったと思っていたんじゃないかな。『最初から行きたかったのに行けなくて悔しい』という感じではない。ただ、同期や仲間が多く戦死し、自分はなにをしているんだという思いは強かったはずだ。三島さんの戦後を察するに、全力で生き、全力で戦うことによって自分のエネルギーが湧きたつ戦争というものが終わって、代わりが何も見つからない不安やいらだちはあったんじゃないかな」
――三島は戦後の日本について「無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、ある経済的大国が極東の一角に残る」と警鐘を鳴らした
「全力で生きるために、なにか絶対的なものがあってほしいというところで天皇という存在にたどり着くんだと思う。やはり人は絶対的なものがほしくなる。2つの選択肢からどちらかを選べと言われる方が楽だけど、生きている実感がわかない。なんで生まれたのかを明確にしたいというのは人にはあるはずだ。僕も何度か自殺をはかったことがある。薬を飲んだりね。生きる価値はないんじゃないかという自問に対し、生きている実感や証明がほしいと思ったから、共鳴してしまう」
《三島は45年11月25日、東京・市谷の自衛隊駐屯地で自決した。宮本さんはその最後も「演劇的だ」と感想を抱くという。新たな三島作品の演出にも挑む》
――三島との最初の出会いは自決を報じるニュースだったと
「バカにされようが、何があろうが自分の生き方を続けるということだけど、三島さんというのは自分がなりたい人物像を作っていった人だと思う。演じることで自分を変え、理想の姿に近づく。それが舞台でいう『構成』というものに影響していく。自決の際もバルコニーといい、衣装まで演劇的なんですよね。知っている方に話を聞いても、そもそも三島さんが他人に怒鳴ったり、キレたりするというイメージが湧かない。東大で演説したときも諦めずにおだやかに話していた。むろん茶番ではなく、三島さんは本気でこう生きると明示して死ぬ瞬間まで伝えていくと心に誓っていたんだろうとは思う」
――外国での三島の受け止め方はどうか
「米国でよく聞くのは『最も顔の見える日本人』という言葉だ。三島さんは英語も堪能でジョークも口にし、外国の友人も多かった。ノーベル賞候補にも上がったが、相手を説得できる西洋的論理性の中で、日本のすばらしさを伝えたという印象が強いようだ。自分の国だけでとか、『日本はいいんだ』とほんのり幸せそうにするといった内向きな考え方をしない」
――『金閣寺』に続いて、『ライ王のテラス』も演出した
「常にプレッシャーを感じてやってきた。当初は困惑気味な出演者も、最後はみんな三島ファンになる。今年は『サド侯爵夫人』に取り組む予定だが、三島作品は継続的にやりたい。三島さんは日本への思い、他者への思いを大切にしてきた人だと強く感じている。生誕100年は節目。みんなで語り、若い人だけでなく多くの人が作品に触れるきっかけになったらいい」(聞き手 五十嵐一)
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