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<朝晴れエッセー>繭玉の思い出

産経ニュース / 2024年7月20日 5時0分

梅雨の季節に思い出す。わが家は養蚕家で私は7月生まれ。黒く微細な毛虫のような稚蚕が、丸々と太って、大人の指ほどに成長する最も多忙な季節だった。家族は1階の半分に追いやられ、私は成蚕が食(は)むざわざわとした音と、蚕糞の醸し出す強烈な匂いの中で育てられた。

やがて雪のように白い繭が、蚕座紙を敷いて山のように積まれる。繭が売れると小学生の私は、単衣の井桁絣(いげたがすり)の着物とズックの靴を買ってもらえた。

小正月の行事も養蚕家特有だった。米粉を蒸して半練りにし、繭にちなんだダンゴ状の繭玉を笊(ざる)に2、3杯作った。父は山から村ではカシオスと呼ばれる木の、枝ぶりの良い株を切り出してくる。この枝先はサンゴのように赤く養蚕家に縁起ものとして親しまれた。

この株を父は部屋の隅柱にくくりつける。枝は部屋いっぱいに広がる。赤い小枝の先に家族総出、鼻唄交じりで繭玉を刺す。稲穂が垂れるようにすべての小枝が垂れる。垂れるほどに繭の豊作が期待されるという。

この楽しい行事も、古里ではさびれてしまった。カメラもない時代、写真に残せなかったことを残念に思う。

佐々木恒男(91) 東京都葛飾区

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