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<朝晴れエッセー>水筒と飯盒

産経ニュース / 2024年9月16日 5時0分

子供の頃、遠足の度に気になっていた古い水筒が祖父母宅にあった。戸棚の隅に塗装の剥げた飯盒(はんごう)と並んでいた。今は実家の母が大切に保管している。

持ち主は私が13歳のときに他界した祖父。祖父はこれらを携え、祖母と祖母のお腹の中にいた母を残し、スマトラ島へ出征した。

現地では度々徒競走をやらされた。銃を解体して組み直す競争もあった。遅かった仲間が次々に減っていった。ついに祖父にも出陣の命が下ったが、マラリアに冒されて生死をさまよった。まだ見ぬわが子に会いたい一心で意識を取り戻したとき、大半の仲間がいなくなっていた。そして終戦となり、この水筒と飯盒と一緒に、4歳になった母のところへ帰ってきた。これは母から聞いた話だ。

祖父は帰国の叶わなかった仲間たちの魂を水筒と飯盒に詰め、申し訳なかった思いを、祖母が拝み続けてきたのだろう。

もう戦争の実体験を語れる人も少ない。でも、墓じまいを遺言しておきながら、この水筒と飯盒だけは母に託して逝った祖母。二度と愚かな戦争は許すな、という祖父母からの後世への強烈な無言のメッセージだと、私は受け止めている。

中﨑雅美(56) 大阪市住吉区

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