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夫婦別姓がもたらす未来とは どんな副作用が起こるか、十分に議論されているのか モンテーニュとの対話 「随想録」を読みながら(193)

産経ニュース / 2025年1月4日 11時0分

立民の印象操作に乗せられるな!

「選択肢が増える」という物言いに対して、大半の人は「いいじゃない」と反応するだろう。ただ、そこに巧妙なワナが仕掛けられていることもある。

ある結婚情報サイトが、選択的夫婦別姓制度について、そのメリット、デメリットについて解説し、こうまとめている。

「以前よりも、多様性を認め合う社会へと進むなかで、個人の権利や選択肢を尊重する傾向はますます強まっていくと考えられます。夫婦間の姓をどう選ぶかもそのひとつです。夫婦別姓が導入されても、すべての夫婦が別姓になるわけではなく、あくまで選択肢が増えるということ」

メディアに流れているのはこんな物言いばかりだ。こうした情報環境のなかで暮らす人々が、アンケートで「この制度を導入すべきだと思いますか」と問われれば、多くが「導入すべきだ」と答えるに違いない。

法務省のサイトに、令和3年に実施した「家族の法制に関する世論調査」の結果が掲載されている。「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい」が27・0%、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」が42・2%、「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」が28・9%だった。

国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は昨年10月末、日本政府に対して、婚姻後の夫婦同姓を強制する民法の規定を改正すべきだとの勧告をした。女性が夫の姓を名乗ることを余儀なくされることが多く、それが差別的だというのだ。

そうした流れのなかで、立憲民主党は先の総選挙で与党が過半数割れとなったのに乗じて、衆院法務委員会の委員長ポストを要求して確保した。委員長は同制度の導入にとりわけ熱心な西村智奈美議員である。

立民はCEDAWの勧告や、「結婚後に夫婦のいずれかの氏(うじ)を選択しなければならないとする制度を採用している国は、日本だけ」という法務省の調査を利用して、日本がさも女性に差別的で後進的な国であるかのような印象操作を行っているようにみえる。

安倍晋三元首相の暗殺後、リベラル派に乗っ取られた感のある自民党のなかにも「導入すべきだ」と考える者が少なくなく、うかうかしていたら、すぐにでも民法改正が実現してしまいそうな勢いだ。

憲法改正に匹敵する案件

12月5日の衆院予算委員会において、自民党の山下貴司議員は、同制度をめぐり「旧姓を引き続き使用したいだけなのに、家族の姓まで別々になるのは嫌だ、そういうニーズに応えられていない」「女性が自分らしく旧姓を使用するための唯一の解決策が選択的夫婦別姓制度かは、しっかりと検討する必要がある」と、石破茂首相の考えを問いただした。

これに対して石破首相は「前の姓を変えなければならないということに対してものすごくつらくて悲しい思いを持っておられる方々が大勢いることは、決して忘れてはならぬことだと思います。それは女性が95%であるが、男性もそういう思いの方もいらっしゃるでしょう」と、情緒的な答弁をし、同制度の導入に前向きな姿勢を示した。

石破首相の答弁を聞いてすぐに想起したのが、モンテーニュの次の言葉だ。

《世の中はなかなか直りにくいものである。人々は自分を圧迫するものに対してあまりにも我慢ができないので、ひたすらその圧迫から免れようとばかりあせり、それにはどんな代償がいるかを考えない。我々はたくさんの実例によって、社会はふつう、直されてかえって悪くなることを知っている》(第3巻第9章「すべて空なること」関根秀雄訳)

同制度の導入がどんな副作用をもたらすか、十分に議論されているとは到底思えない。導入に伴う民法改正は、憲法改正に匹敵するほどの最重要案件であると私は考えている。国民投票に付してもいいほどだ。しかし、国民投票が実施されるのは国会が憲法改正を発議したときだけだ。

ならば、今年実施される国勢調査に合わせて、同制度導入の可否を問うアンケートを実施したらどうだろう。

家族制度こそが社会を規定する

私が家族制度にこだわるのは、フランスの歴史人口学者にして家族人類学者であるエマニュエル・トッドの『新ヨーロッパ大全』(藤原書店、石崎晴己訳)の影響だ。

下部構造(経済的土台)が上部構造(政治・法律・宗教・芸術などの意識形態と、それに対応する制度・組織)を規定するというマルクスに対して、トッドは家族制度が上部構造を規定するという仮説を立てた。家族制度が人間の心性に大きな影響を与え、ひいては人間が形成する社会を特徴づけてゆくというのだ。

トッドは家族型を親子関係が権威主義的か自由主義的か、きょうだいの関係が平等か否かによって分類する。そこから導き出されるのが、①親子関係が自由主義的できょうだい関係が不平等(長子優先)=絶対核家族、②親子関係が自由主義的できょうだい関係が平等=平等主義核家族、③親子関係が権威主義的できょうだい関係が不平等=直系家族、④親子関係が権威主義的できょうだい関係が平等=共同体家族―の4つである。

たとえばパリ盆地を中心とするフランス北部は②の平等主義核家族であり、それゆえにこの地が「自由・平等・友愛」を唱えるフランス革命の担い手となった。

①の絶対核家族が優勢なのはイングランドと、その移民の子孫であるアメリカだ。この家族型が、個人の自由を絶対視し平等に無関心な強欲資本主義の母体となった。

④の共同体家族は、西ヨーロッパにはまれで、ロシア、中国、ベトナム、東ヨーロッパに多いという。この家族型がもたらしたのは言うまでもなく社会主義革命である。

ちなみに戦前の日本は間違いなく③の直系家族だろう。このなかで育まれた心性が、明治以降であれば天皇に対する態度、日本軍のありように投影されていたように思う。

現在の日本がどの家族型に当てはまるかは判然としないが、権威主義的でなくなったことだけは確かだろう。そこにつけ入ったのが選択的夫婦別姓制度推進派だ。

私は邪推する。女性差別撤廃を掲げる彼らの本当の狙いは、家族を精神的に解体し、さらには戸籍制度も廃止して、日本人をバラバラにすることではないかと。そのうえでバラバラになって寄る辺なく浮遊する日本人を④の共同体家族としてまとめあげようとしているのではないかと。(桑原聡)

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