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<朝晴れエッセー>人生は塞翁が馬だ

産経ニュース / 2024年12月20日 5時0分

父が白寿で逝ってから文箱を開くと二十数枚の原稿用紙が出てきた。そこに父の生涯が直筆で書かれていた。生前の父は「人生は塞翁が馬だ」と口癖のように話していたが、原稿を読み、初めて生い立ちを知り納得した。

父は3歳で親元を離れ、叔母に育てられたという。小学校3年で奉公に出され、小僧として店を転々としたそうだ。転機が訪れたのは関東大震災。20歳のときである。住み込み先の市街が壊滅して、遠縁を頼り関西へ避難、大手船会社の船員募集に応募した。いつも国語と英語の辞書を傍らに置き、新聞を読みふけっていた後ろ姿を思い出すと独学で採用されたのであろう。

英語に秀でて国際航路の旅客担当になり、見聞を広めた。先の戦時下では病を患い兵役を免れ、終戦後は進駐軍の通訳として生活を支えていたが私が小学5年生のとき、再び船に乗り込み家を離れた。父が家庭に戻るのは年に2回ほど。正月やお盆の帰省時期に親子連れの姿をみると寂しさが募り、ひとりで横浜の埠頭(ふとう)へ行って「おとうさんと叫んだ記憶がよみがえる。

定年まで乗船して、接する時間は少なかったが私の人生も山あり、谷ありだったので父の齢(よわい)に近づくのに増して「人生は塞翁が馬」の重みを実感している。

吉田博(83) 静岡県熱海市

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