1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. カルチャー

<朝晴れエッセー>父からのエール

産経ニュース / 2024年8月16日 5時0分

入学の節目、節目のお祝いによく時計を贈られた。かわいいディズニーの目覚まし時計だったり、大きな文字の見やすい腕時計だったり。時計は人生の先輩から、これから人生の階段を上っていく後輩へ送られるエールなのかもしれない。

しかし私は大学生の頃、父に腕時計を贈ったことがある。父が旅先で腕時計を紛失しかけたことがあり、予備の時計でもあればという気持ちが働いたからだろう。

父は仕事のときは着けなかったようだが、ゴルフ場や旅先では必ず着け、他人に少し褒められると親ばか丸出しで大喜びして私に報告した。

父は病を得て入院した後、腕時計をしなくなった。病院には貴重品は持ち込めず、また時計は置き時計で足りたからである。そして入退院を繰り返し、父は今年の春、亡くなった。

葬儀を終え父の書斎に入ると、万年筆、仕事用の手帳、ノート…持ち主を失った父の私物は一斉に沈黙していた。

しかし机の上の腕時計だけは私に沈黙しなかった。私は腕時計を手に取った。男持ちだが、やや華奢(きゃしゃ)な作りで私が着けても差し支えなさそうだった。30年以上昔に大学生の私が贈った腕時計、父も笑って譲ってくれるだろう。

鳥山有里子(59) 奈良県生駒市

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください