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<朝晴れエッセー>しおざわ産

産経ニュース / 2024年10月29日 5時0分

「もうじき稲刈り、これは古米」

交際中の女性の部屋で初めて料理を振る舞われた秋、ご飯をひと口ほお張って衝撃を受ける。コメがこんなにうまいものだとは。実家が新潟の米農家と聞いてはいたが、超のつく銘柄米と知り納得する。女性は妻になった。

冬、南魚沼は白一色。妻の実家で迎える初めての正月、晩は親戚が大勢そろい宴になる。「裏でビール抜いてこい」。義父がいう。勝手口から出ると、身の丈に積もった雪の壁にビール瓶が何本も刺さっている。「冷蔵庫がいらねえ」。義父はニヤリと笑った。

春、日の出前、無色。登川沿いに畔(あぜ)を歩く。田んぼの水鏡に映る巻機(まきはた)山、残雪の穏やかな稜線(りょうせん)にため息が出た。

盛夏、晴れた午後。昼寝を決め込み、枕ひとつ抱えて2階にあがる。畳にごろんと寝転がれば、田んぼを渡る風が部屋を満たした。

今秋、30回目の収穫。妻の実家は義父と義妹の2人が暮らす。せめて軽トラの運転をと、手伝いに帰省した。

「腰が痛え」。傘寿の義父はぼやきながら、手際よくコンバインを操る。その所作に見ほれた。脱穀した籾(もみ)を手にすくうと、義父はニヤリと笑った。「一等米だな」

一宮学(60) 埼玉県所沢市

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